ザミダラクエスト外伝〜令嬢聖騎士は淫魔様に恋しちゃうの〜

甘栗八(アマクリエイト)

プロローグ:淫魔城爆散を回避せよ!

「なんということだ……」




魔界四天王のひとり、淫魔侯いんまこうインゾルゲは、頭を抱えていた。


なんの因果か、前世における18禁ゲーム『ザミダラクエスト』の攻略知識を急に如実に思い出したのである。

その時の自分が何者だったかはわからないが、これまでの魔王軍の被害状況は、この謎の記憶とまったく符合するのだった。


しかし彼を悩ませる原因は、妙な情報が頭に入ったことそのものではなかった。

なんとその世界において、登場人物『淫魔侯インゾルゲ』は、これから勇者に淫魔城もろとも極大魔法奥義で吹き飛ばされて爆殺されてしまうのだ。




ことの次第はこうである。


勇者パーティーがダンジョン攻略中に、転移魔法が仕掛けられたトラップにかかった。咄嗟に仲間を突き飛ばした聖騎士セレナはひとり、敵の只中に強制的に瞬間移動することに。奮戦もむなしく、衆寡敵せず捕らえられたセレナは、淫魔侯インゾルゲとその一味に凌辱の限りを尽くされて精神が崩壊してしまうのだ。


仲間に刻まれた勇者の聖紋を頼りに居場所を突き止め、淫魔城に乗り込んだ勇者レオンは、その惨状に激昂して必殺奥義に覚醒。城まるごとを爆散させ、にっくきインゾルゲを軍団もろとも血祭りにあげる。


その後、聖女クラリスの浄化とレオンの涙により正気を取り戻した聖騎士セレナは、闇との葛藤を乗り越えて真なる力に目覚め、一躍最強キャラにおどりでるのであった。




……城まるごとを爆殺とは、ふざけきった威力である。しかも聖騎士はそれよりもなお活躍するというのか。おとぎ話にしても乱暴きわまりない。

しかし、これがまったくのデタラメであるとは、インゾルゲにはどうにも思えなかった。

がいうように、肩を並べる四天王である氷結の魔女メデイアは先日前線拠点を失って撤退したばかりである。ごく最新の戦況だ。

ざっと遡ると、キングオーク率いるボグゾラの里や、屍術師しじゅつしネグロムの暗黒図書館も焼き尽くされたと聞いているが、それらもまた、断片的にしか知らぬ四天王インゾルゲをさしおいて克明に記されていた。


仮にこの『攻略情報』とやらが正しいとして、この未来は絶対に阻止せねばならん。

インゾルゲ自身の命もさることながら、淫魔城自体が吹き飛ばされるなど、いったいどれほどの血が流れようというのか。




ひとまず、この聖騎士の転移とやらについて確かめてみるか。

インゾルゲは、配下に城内のあれこれを手早く指示するとすぐに、愛槍ザヴォスを携えてひとり黒き天馬を駆り、記憶に示された聖騎士セレナの転移地点へと急いだのだった。

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