第97話 魔王の地下迷宮 その10
とうとう地下10階に降りた私たち一行は、延々と続く一本道をひたすら歩いていた。
「せっかく弟君の実戦を見てみたいのになぁ」
そう10階に降りてから、まだ一度も魔物は現れていない。
結局魔物に出会うことも無くその一本道も終わりを告げ、次に現れたのは広大な崖と長い吊り橋。
崖の下は漆黒の闇が広がっていて、まるで那落に続いているかのようだった。
「こんなところで現れないでくれよ…」
クラスさんの言うとおりだ。
こんなところで現われでもしたら戦いどころではないだろう。
そう思いながら慎重に橋を渡って行く。
「うわー、すっごーい」
時折、ノルは橋の下をのぞき込んで言う。
「ノルさん、あまり身を乗り出してはいけませんよ」
「はーい」
そう答えながらノルは軽快に歩く。
ギシギシギシ。
「ひっ!………」
「ノルっ!もっとゆっくり歩いて」
私はと言えば、ユーリーのプレートメイルに掴まりながら腰を抜かしたように歩いていた。
ようやくその橋を渡り終えると、その先に広がっていたのは荒野。
そして、そこには二人の人影があった。
「ようこそ、我が地下迷宮の最下層へ」
「そして、ここがお前たちの墓場となるところだ」
「ふん、何言うてんねん」
「そういうんは死亡フラグ言うんやで」
チサトさんは、クラスさんの後ろに隠れながら
「それは面白い冗談だ」
「では、どちらが正しいか勝負といこうではないか」
「望むところよ」
「おっと。そうだった」
「こいつはその女との再戦を希望していてな」
魔王は、パパを右の親指で差しながら言う。
その女というのはカヤさんである。
「じゃあ、あんたは俺達5人でってことで良いのかい?」
「いや…お前ら4人に用はない」
「お前らの相手はこ奴らよ」
魔王はそう言うと私たちの方を…いえ、その更に先を指差した。
私たちは背後から感じる異様な殺気に振り向くと、側頭部には羊のような2本の角、体には左右2本ずつ計4本の腕、背中には羽毛のない気味の悪い羽を羽ばたかせながら宙を浮いている2体の異形の者。
「グレーターデーモン…それも2体だとっ!」
「くっくっく、お前たちが戦ったレッサーデーモンとは比べ物にならぬぞ」
「では、お前は俺と差しで勝負といこうではないか」
「そちらも対策をしていたってことかしら」
「流石にあれだけの時間があれば、魔界から呼び寄せる時間はあったからな」
「さて、始めるとするか」
魔王はそう言うと、私に一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けて来た。
「魔法…じゃない!?」
魔王の右拳を強化した両腕で防いだものの、大きく弾き飛ばされてしまう。
私は、何とか空中で一回転をして態勢を整え直すことに成功し、無事に着地をすることが出来た。
「迷宮でのお前の行動は魔水晶から随時見てはいたが、いやはや、想像以上によく出来た強化魔法のようだな」
「それはどうも」
「そんな事よりも、魔法は使わないのかしら?」
「ふん…その手には乗らんよ」
「カウンターで、例の怪しい魔法を使う気なのであろう?」
「お前の体にも大変興味はあるが、こいつの体も中々でな」
「全属性の魔法は覚えているし、身体能力も
「本当に使い勝手のいい体だ」
「難点は、俺ではこいつの持っている治癒系の魔法が
「で、準備は出来たのか?」
魔王は、会話の間に私が作り出していた
「ええ、準備は整っているわ」
私は、ちらっとユーリーたちの方を見ながら言う。
どうやら、ユーリーが前衛として上手く立ち回って、後衛のクラスさんとチサトさんとの連携も上手く取れているようだ。
ノルも後衛の二人によって守られている。
「よそ見している余裕はもうないぞ」
魔王は、そう言うと再び距離を詰めて攻撃を仕掛けて来た。
「くっ!このっ!」
私は、剣を右から斜めに振り下したものの、予想していたのかあっさりと避けられてしまう。
「甘い!」
次の瞬間、右わき腹に衝撃と共に激痛が走った。
魔王の繰り出した左の拳撃が、見事に直撃したからだ。
「がはっ!」
攻撃は止むことなく繰り返され、防御に徹するのがやっとの状態だった。
その間、何度も直撃となる攻撃を食らっていた。
最後は魔王の繰り出した蹴りで、私の体は吹き飛ばされて地面に激突した。
「がっ!…うぅっ…」
そんな、私に魔王は容赦なく更に襲い掛かって来たものの、距離が出来たおかけで治癒魔法を使う時間が出来た。
「フル・リカバリー!」
「なにっ!」
完全回復した私は、魔王の追撃を逃れてすぐさま距離を取る。
「ちっ…完全回復が出来ると、やはりやっかいだな」
「ふふん、勝負はこれからよ」
口から流れ出た血を手の甲で
こうして、戦闘が再開されたのだけれど、それ以降も私が押されるのは変わらなかった。
「ふっ、回復する暇は与えんよ」
回復もままならなくなった私は、次第に追い込まれていき地面に伏してしまった。
「短期間でこれほど強くなるとはな………だが、経験の差までは埋められなかったようだ」
「安心するがいい、殺しはせん」
「もっとも、お前の意識は永遠に闇の中に閉じ込められ、二度と目覚めることは無いがな」
「では、さらばだ」
薄れる意識の中、魔王の繰り出してきた拳撃がその目に映った。
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