第19話 私がドキドキしたからと言って惚れているとでも思ったか

「それは村で使う分だから駄目だって、父さんと母さんに言われてしまって」


そう言って苦笑いをするユーリー。


「………」


「どうしたの?マリア。そんな猫の目をしながらジッと見つめて」


「別に…何でもないわ」


まぁ…ユーリーは弟みたいなものだし、恋愛対象だなんて一度も思った事ないし、別にどうってことないわ。

そう自分に言い聞かせて平静を装った。


「ともかく、村の分は駄目だけど、さっき言った場所にも生えているからって教えてもらって」

「本当は、もうちょっと近場にもあるらしいんだけどね」


「へぇ。それで…その近場に行こうと思わなかったの?」


別に興味ない風に言いながらも、一言も逃すまいと聞き耳電波を最大限に張る。


「だって…マリアに会えるから…なんて、えへへ…」


ユーリーは、はにかみながら両手の人差し指の先を合わせて、芋虫のようにくねくね動かしながら、そう言った。


「はぇっ!?」


ユーリーの火の玉ストレートが、私の胸を突き破った勢いで変な声が出た。

もちろん、本当に突き破ったわけではないのだけれど。


「そ…そんなことより、依頼よ、依頼!」


「そ、そうだね!」


私は震える手でマウスを動かしはじめ、依頼を見ていくものの全く頭に入ってこなかった。

いつもなら、ユーリーが何か見繕ってくれるはずなのに、全くその素振りも無く時間だけが過ぎていった。


「………とりあえず、明日にしましょう」


私は机を両手で押しながら立ち上がり、そう言った。


「そうだね…急ぐことは無いからね」


ユーリーもそう言って同意した。

ノートパソコンの電源を切ると、同じ居間にあるソファの方に向かいテレビを付ける。


「あ、僕、コーヒー淹れてくるね」


「そうね、頼めるかしら」


「うん」


こうして、私はほんの少しだけ心を落ち着かせる時間が出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る