撤退作戦

「ようやく退却の時間か」

 

 広大な平原の中で必死に遅滞戦術を行っていたルイス辺境伯はようやく来た撤退の命令に歓喜の声を漏らす。


『諸君、撤退だ。川のラインにまで撤退。全軍で背を向けて脱兎の如き敗走を見せるぞ。俺たちの背中は英雄が守ってくれる。すべての物資も廃棄だ。既に防衛線にはありとあらゆるものが揃っているらしい。俺たちが必死こいて守り、大切に使っていた物資はもう用なしだそうだ』


 そして、すぐさまルイス辺境伯は伝達魔法を発動させ、一気に各々の部隊を率いる 部隊長へと連絡を送っていく。

 

「者ども!」


 その後、ようやくルイス辺境伯は自分たちの部下へと声を届かせていく。

 

「ようやく俺たちが帰る時が来たぞ!川のラインまで撤退だ!戦略や戦術なんて捨てろ!各々が魔法で徹底的に逃げろ!とりあえず川の方に引いていくのだ!その身一つだけで良い!後方の防衛線で作ってくれているらしい暖かい飯を食いに行くぞ!」


 ルイス辺境伯は地味に難易度が高い伝達魔法を受信する魔法を使うことが出来ない一兵卒に向けて拡散した自分の声で命令を飛ばしていく。

 それを受け、わらわらと自分一人が入れる穴を作って芋っていた兵士たちがその体を飛び出して全力で逃走を開始する。

 その他の戦列でも既に逃走劇が始まっている。

 各々が速度上昇の魔法だけを使っていることもあって圧倒的な退却速度である。


「……さて、どれだけ逃げられるかな」


 いきなり始めた大撤退劇を前に敵も浮足立っている。

 追撃するべきか、しないべきか悩んでいるようだった。


「まぁ、それは若き者たちの手腕次第というところかな」

 

 ルイス辺境伯はこの戦域へと援軍としてやってきているリノナーラ王女殿下のことを思いながら、自分も撤退を開始するのだった。


 ■■■■■


 魔導自動二輪。

 自分たちの魔力で練り上げて作った武器……というか、普通にバイク。

 味方が撤退している中、僕とリノは精鋭たちと共にそのバイクに跨って戦場を疾走していた。


「……敵はちゃんと釣れているみたいだね」


 そんな僕たちの前には逃げる我が国の兵士へと追撃を行うために陣地から飛び出してきた敵兵の姿が見える。


「そりゃそうでしょう。何の戦略も戦術もなしに逃げ出したのですから……ここで何も動かずに全軍を見逃すのはかなり問題でしょう」


「さて?それで、防衛が軽くなっていそうなところは何処かな?」


「……お待ちください。今、探査魔法を使っているところです」


 僕とリノは味方が撤退劇を行う中で、最初の攻勢を開始するのだった。

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