悪役貴族に転生した僕は追放されたいのに、ヤンデレ化した王女様が許してくれません!
リヒト
序章
プロローグ
悪役貴族。
それがカクヨムで流行ったのはいつ頃だっただろうか?
確か、一年以上前にエロゲの竿役が主人公の代わりとしてヒロインたちから惚れられるハーレムものから始まり、運営からの『エロタイトルは程々に』というお達しと共に自然と主人公がエロゲの竿役から悪役貴族というマイルドなものに変わっていた。
一読者として流石にエロゲは不味いやろ、とか思いながら拝読し、運営のお達しによってその主人公を悪役貴族に変えた当時の作者は天才過ぎるでしょ、そんなことを思いながら更に一年。
悪役貴族の灯火は消えることなく伸び続け、それを僕も楽しく読んでいた。
「……んで、その挙げ句の果てに僕が悪役貴族に転生するとは思わなかったなぁ」
僕は過去の回想を程々に済ませると共に今、自分の座っている椅子の横にある窓からきれいな青空を見上げる。
高校生まで生きていたかつての僕が見上げた空に浮かぶの太陽が一つ。
だが、今自分が見上げる空には二つの太陽が浮かんでいる。
あまつさえ、太陽を直視すれば一瞬で目を焼かれてぶっ倒れていたであろうかつての僕の姿など今はなく、魔法という理論構成が全く持って不明な奇跡によって裸眼の状態で太陽を見上げることが出来る。
「ふふふ……まさか、まさかこんなことになるなんてなぁ」
大人気オープンワールドRPGゲーム『イルミナティ』。
日本中、ひいては僕のクラスでの大流行もあって始め、次第にハマっていたそのゲームに登場する一人の不遇なる悪役キャラ、ルノ・ラステラ。
きれいな白髪に青と黄色のオッドアイの美形などという完成されたイケメンフェイスに悲惨なその人生も相まって人気を博していた悪役貴族。
僕が見つめる窓に反射して見える僕の顔はまさにそんなルノの幼少期の姿そのままであり、パーカーを好き好んで着ていた男が今、身につけているのはゲームに出てくる貴族の豪華な衣装となっている。
「人生どうなるか、マジでわからないよなぁ」
前世において、ただの一般通過高校生でしかなかった僕がトラックに轢かれて死んだかと思えば、自分がやっていたゲームの悪役貴族、ルノに転生しているなんて。
とはいえ、僕も生まれた時から自我があり、ルノとして生きてきたので変な気負いは無いけど……それでも今でも驚きだけは消えない。
「ルノぉー!」
そんなことを考えながら黄昏ていた僕のいた部屋が勢いよく開けられると共に元気な声が響き渡る。
「やぁ、リノ。いらっしゃい」
部屋の中へと入ってきた少女。
それはまだ八歳である僕と同年代の子であり、黄金のような金髪に宝石のような青い瞳を持った美しい少女、リノナーラ・ウェストン。
ウェストン朝ユーレイル王国の第二王女であり、僕の婚約者である。
とはいえ、僕は悪役貴族。
いずれは別れる運命にあるのだが。
「おいで」
とりあえずそんなことは考えずに僕は自分の膝の上を叩きながら、リノへと告げる。
「わーい!」
僕の言葉を聞いたリノは天真爛漫な笑みと共に己の膝の上へと座ってくる。
「えへへぇ」
「おー、よしよし」
いずれは別れる運命のリノ。
だが、今僕の前にいる彼女は可愛い八歳児であり、三歳の頃から面識のある子である。
未だ八歳、だが精神年齢であれば二十歳を超える僕としてはただただ純粋に彼女を可愛がっていた。
そこに性欲も、将来に対する考えも何も無い。
「るのぉー」
「はぁーい?」
僕の心としては己の小さな姪を可愛がる男の気分なり!
リノは、本当に可愛いのだ。
「何でもなぁーい、呼んでみただけぇ」
「おー、そうかそうか」
三十路を超えたババアが言えばどつき回したくなるような台詞でもリノが言えば天使のラッパである。
世界終末クラスの可愛さだ。
僕はすりすりと胸元に自分の頭を擦りつけてくるリノの頭をやさしく撫でる。
「えへへ……るのぉ」
「ん……?」
そんなリノが再び告げる自分の名前に反応して僕も声を上げる。
「ずっと……ずっと、一緒だよぉ?るのぉ」
「ん?何か言った?」
だが、その後に続いた彼女の言葉は小さくて聞き取れなかった。
「うぅん!何でもなぁい!ふぇぇ」
そんな僕の言葉に対してリノは首を振って答え、再び自分の頭をこっちの胸元に擦り付ける作業へと戻る。
「んー」
そんなまるで天使かのようなルノの頭を撫でながら僕は一人で考え事に勤しむ。
ルノの闇堕ちは僕の行動ではなく、父上の、ラステラ侯爵家現当主である男の国家反乱より始まることもあってこちらではどうすることも出来ない。
もはや悪として断罪され、国から追放されるのは半ば確定的である。
しかし、その後であれば別。
追放されて自由になった後であれば、僕は己の好きなように動くことが出来る。
ここはオープンワールドの世界であり、僕が画面で見ていた世界がリアルに広がっている世界なのだ。
ならば、僕が望むのは自由。大好きなゲームの世界を、冒険したい。
将来、父上の反乱から国家を追放された後に、闇堕ちはせずに世界を見て回る。
それこそが僕の望みであり、夢なのだ。
そのために僕は一人で旅に出でも問題ないだけの生活能力に一般常識。
そして、何よりも力をつけてみせると僕は息巻いていた。
「るのぉ……ふへへ」
だがしかし。
この時の僕は気づいていなかった。
自分の膝の上にいるリノがハイライトない瞳でしがみつきながら怪しく笑っていたことに。
僕は既に遠ざかりつつある夢をただ愚直に望み、見ていたのだった。
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