ゲオルグ・エルンスト②

「貴様が羨ましい。」

 顔面熱傷の負傷兵、その残った左目を再生する本日分の治療を終えたヴィルヘルムにゲオルグは詰め寄った。ヴィルヘルムも背が高いが、それを頭一つ上回るゲオルグは若干威圧的に周囲からは見えた。

「さあさあ、お昼にしましょう。」

 何やら若い二人の『治療術師』が揉めているのを見て、呆れたように小夜が声をかけた。最後の一人とは言え、負傷兵がいる療養院、ヴェルナーとテオドールはもちろんだが、小夜とヴィルヘルムは毎日療養院通いを欠かさなかった。後ろから付いてくるエルフェリンを伴って。ヴェルナーとテオドールは人数分のチーズ粥とビール、酸っぱいキャベツを厨房から運んできた。もちろん自分で食事が取れるようになった負傷兵の分も。

「貴様が羨ましい。」

 三杯目のジョッキを傾けながらゲオルグはは同じことを繰り返した。ヴィルヘルムはその言葉に気分を良くしたのか、快活に答えた。

「ええ、私には導師メンターがおります。私の『治療術』だけではなく、私自身を導いてくださる導師メンターが。」

 二度も導師メンターと呼ばれ、小夜はヴィルヘルムを軽く睨んだ。気分の高揚しているヴィルヘルムは肩をすくめながらも、ゲオルグににこりと微笑んだ。するとゲオルグは予想もしない行動に出た。

導師メンター、どうか私をもお導きください。」

 そう言いながらゲオルグは深々と頭を下げた。これに面食らった小夜はヴィルヘルムに視線で助けを求めた。ヴィルヘルムが慌てて間に入る。

「お待ちください、ゲオルグ殿。この方は私の導師メンターなのです。」

≪誰が私の所有権を主張しろと言った!!≫

 当ての外れた小夜はため息交じりに話し始めた。

「私は病人や怪我人の治療を手伝う仕事をしていただけ、戦闘なんて経験がないもの。私の助言が役に立つとは思えませんよ。」

 すると巨漢の『爆炎術師』ゲオルグは目に涙を浮かべながら言った。彼はいかつい体格に似合わず涙もろいようである。

「それでもお知恵を拝借したいのです。一度で結構です。軍議に参加してください。お願いします。」

 ゲオルグは本気だ。小夜が思念に耽っていたころ、その可愛らしい足取りでエルフェリンはそっとその場を離れ始めた。テオドールはエルフェリンが食後の歯磨きから逃れようとしているのを察してその尻尾を掴んだ。

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