鴬塚小夜②

 ヴィルヘルム・アイントホーフェンにサヨさんと慕われる女性、彼女は鴬塚小夜おうつかさよという名前の日本人であった。若いころから容姿には自信が持てなかった小夜ではあるが、努力家で理系肌の加代子は高校を卒業後看護師を目指した。自身が想像するよりも遥かに優秀な成績で看護学校を卒業し、地元の中核病院で働き始めた。新人時代から所謂看護師のお姉さん役、プリセプターを唸らせるほど優秀で努力家な小夜。気づけば三十路を迎える前に病院感染対策室付き研究主任となる異例の大抜擢を現実のものとしていた。小夜はその知識と熱意が買われ、医師からの信頼も厚く、看護師以外の医療従事者、所謂いわゆるコメディカルスタッフにも慕われていた。


 小夜は人生の大半を仕事に充てていたが、残った時間は酒と趣味に費やしていた。仕事が終わり、自己研鑽の研究を終えた小夜の楽しみは、仮想現実の中にあった。現実とは違うVRの世界、そこは美しいものであふれており、その世界に足を踏み入れた小夜も例外ではなかった。仮想現実空間でSAYOを名乗っていた小夜は、すらりとしたスレンダーボディにちょっと吊り目なぱっちり二重、八頭身の小顔をシャギーが入ったブルーのショートヘアーが飾る、狐のような耳と尻尾はご愛敬、そんな姿をしていた。そしてそこの住人たちはSAYOに負けず劣らず見目麗しく、可愛い、美しい、かっこいい、いけてる、そんな装飾語が飛び交う世界。世界への没入感を増すためのヘッドホンからは、脳をとろけさせるようなイケボイスが飛び交う。この世界の小夜は美しい姿を持ったSAYOとして、快活に生活していた。現実世界の美女たちのようにおしゃれを楽しみ、時には歌い舞い踊った。仮想現実空間内の超絶イケメンたちとロマンスを語らうこともできた。この仮想空間の中でだけは。

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