かみさまになりたい
@gyo-zagyu-don
1話 プロローグ
「ねえ。そこの君」
通学路の真ん中。女子が僕の前に立ちふさがっていた。セーラー服。見たことない学校だ。目鼻立ちのしっかりした容姿だ。特にその目からは、芯の強さが表れている。そして、その目で僕を睨みつけていた。僕と彼女の視線がぶつかり合い……僕は目をそらして、彼女をよけた。
僕の学校は坂の上にある。夏は言わずもがなだが、冬もそれなりにキツい。凍てつくような風が吹き下ろし、僕たち生徒を苦しめる。特に今日は時間もギリギリ。精神的にも、成績的にも、少しでも早く校門をくぐらなければならない。
「ちょっと! 無視すんな!」
スタスタと歩く僕を、後ろから追い抜いた彼女は再び立ちふさがった。
「え……僕? ……ですか?」僕は困惑(したフリを)する。
「当たり前でしょ。他に誰がいるっていうの?」
わざとらしく、周りを見渡す。通学路だけあって、遅刻ギリギリでも学生がわらわらと歩いていた。「いっぱい居るじゃないですか」
「ああ言えばこう言うガキね」彼女はムッとしたように言った。「私の目の前には、あなたしか居ないでしょ」
チッ。そんなに年は離れていないだろうに。僕もムッとして言う。「お言葉ですけどね、アナタだって十分ガキですよ。それにぃ、分かりません?僕、学校行くんです。登校してるんです。あなたに関わって遅刻したくないんです! 大体、アナタは学校いかなくて良いんですか⁉」
僕も伊達にああ言えばこう言ってきたわけではない。こういうメンドイ奴は、こっちをもっとメンドイ奴だと思わせたらドン引きして逃げ出すに違いない。
「ふ〜ん、登校ねぇ……」そんなことはなかったようだ。「手ぶらで?」
「何いってんの? カバン持ってるじゃ……」手元を見やった瞬間、頭が真っ白になる。
僕はたしかに手ぶらだった。
真っ白な意識のなか、一つの言葉が浮かぶ。
ヤバい。
それを皮切りに、頭の中をぐるぐると思考が巡った。
なんで? いつから? 電車に置き忘れた? そんな馬鹿な。気付かないはずがない。そもそも家を出るとき持ってたっけ? 朝の記憶が曖昧だ。急がないと遅刻する。取りに帰る? いや、間に合わない。……そういえば、彼女も持っていない。学生のはずなのに。なんでだ? そもそも彼女は誰なんだ? 僕のことをなんで知っているんだ?
「やっぱり、な〜んにも覚えてないんだ」
次々に巡る思考を断ち切るように彼女は言った。
「……どういうこと?」
僕のその問いに彼女は答える。「アナタね……」その答えは、僕にとって受け入れがたく、信じがたいものだった。
「アナタね……死んでるの。平たく言えば……幽霊なのよ」
かみさまになりたい @gyo-zagyu-don
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