　皆さんは鹿肉を食べたことはありますか？

　僕は北海道に住んでいた頃に食べました。

　初めて食べたのは、酪農実習生として別海町の牧場で働いていた頃。

　牧場に住み込みで、朝食は親方のお母さんが作り、夕食は親方の奥さんが作っていた。

　親方のお母さんの料理は、蕗と鶏肉と昆布の煮物が絶品。

　自家製たくあんを使った甘辛い煮物も美味しかった。

　親方の奥さんは、調理師免許を持っていて、洋食が美味しい。

　その奥さんが、ハンバーグを作ってくれたときのこと。

「それ、なんの肉か分かる？」

　柔らかくて肉汁たっぷりの美味しいハンバーグを夢中で食べている実習生たちに、奥さんが聞いた。

「えっ？」

「牛……じゃないんですか？」

　キョトンとする実習生たち。

　奥さんはイタズラっぽい笑みを浮かべている。

　一体なんの肉なのか？

「それ、鹿やで」

「「「えぇっ？！」」」

　大阪出身の奥さんは、笑いながら関西弁で言った。

　想定外の肉に、僕を含めた実習生一同仰天。

　最近ではジビエ料理ブームとかでメジャーになった鹿肉だけど、当時は道民以外にはあまり食べられていなかった。

　実習生たちは全員内地で生まれ育った者だったから、鹿肉なんて食べるのは初めてだ。

　もちろん僕も初めてだった。

「牛肉は牛のお産の時の匂いがするから、うちでは使わんのや」

　新入り実習生たちを驚かせて面白がった後、奥さんは鹿肉を使う事情を話してくれた。

　牛のお産は、牧場ではよく見るもの。

　後にそれに立ち会った僕たちは、仔牛が産まれ出る際に、生の牛肉と同じ匂いがするのを知った。

　スーパーで買った牛肉のパックを開けたときの、あの匂いだった。

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