第46話 二つの魂



 二つの魂には、桃色と紺色の炎が灯っている。

 その二つは、ククのお腹に寄り添っていて、シシが何度も紺色だけをククから引き離そうとしていた。



「シシ、何してるの」



「何って……なんだろうね。よく分からないけど、紺色の魂はククにくっつきすぎないようにしないといけない」



(なんで?離しても僕のところに戻ってくるなら、そのままにしてあげたらいいのに)



 ククはシシの手を引っ張り、自分からシシにくっつくと、二つの魂がククとシシの間に入る。

 既に自我が芽生えているような二つの魂に、シシは微笑みながらククの額に口づけをし、ククも尻尾を揺らした。



 そうして数日、ククは巣から出なかったが、シシが何度か巣から出て、紺色の魂だけを連れ出した。

 その間、桃色の魂は甘えるようにククから離れず、ククが少しでも動けば、ククのお腹に何度も擦り寄る。

 シシは桃色の魂には触れようとはしないが、時間が経つにつれて、桃色の魂もシシにはあまり近寄らなくなり、紺色の魂にもあまり近寄ろうとはしない。

 だが、ククにはこれでもかと言うほど甘え、紺色の魂も甘えようとするのだから、ククは不思議で仕方なかった。



「――シシ、そろそろ魂から命になるかな?」



「そうだね。真名がついたら、きっと肉体ができて姿が変わるよ。ただ、桃色は古竜に会わせてから真名をつけよう」



(……僕だけ何も分かってない気がする。なんだろう、この違和感)



 魂がある程度育ち、漸くククと桃色の魂も巣から出て数日、色のついた炎が球体の魂から出てしまうほど元気に育った。

 だが、ククはいまだに違和感があり、二つの魂に対してのシシの扱いが違う事と、桃色の魂もシシを避けている理由が分からなかったのだ。



「シシ、僕の違和感に気づいてる?シシをさぐっても分からないんだ」

 


「俺も本能で動いているようなものだから、さぐっても分からないだろうね。おそらく、紺色がアルファで桃色がオメガだと思うよ。魂の状態じゃ分からないし、そもそも性別も種族も分かっていないからね。ただ、俺の本能はそう言ってる」



(アルファとオメガ……僕には全然分からないけど、そう言われると、そんな気がしてきた)



 ククが桃色の魂を抱き、シシが紺色の魂を抱く。

 だが、紺色はククの方へ行きたい様子で、何度もシシの腕の中からすり抜けようとする。

 そんな時、シシが何かをしたのか桃色は怖がるように炎を揺らし、紺色はピタリと止まって動かなくなってしまった。



「この子達も分かってるだろうね。悪いけど、俺はこの子達に愛情をあげられない。無意識に威圧してしまうんだ。オメガには、俺に決して触れてくれるな。触れていいのはククだけだ。アルファには、ククに触れるな。触れていいのは俺だけだ……と。ごめんね、クク」



(シシの独占欲が、ここまでとは思わなかった。でも、シシはちゃんと育ててくれてるし、たぶん愛はある。じゃなかったら、紺色を連れ出して尻尾を揺らしたりしてない)



「この子達が分かってるなら、僕が愛情を与えるから大丈夫。でもね、シシには愛情があるって僕には分かるよ。シシが神力を与えてくれなかったら、僕一人じゃここまで元気には育たなかったんだから」


 

「良かった……ククに失望されるかと思った。少し怖かった。これでククに嫌われるかと思うと……でも、俺は子づくりを間違いにしたくはなかったし、この子達の存在を間違いになんてさせない。愛せないと分かってても、ククを愛してることに変わりはないし、ククとの子が欲しかったのは事実で、今が幸せではあるんだよ。愛せなくても、この子達を俺が嫌う事はないし、大切にする事はできるから……だから、できるだけ俺の逆鱗に触れないようにした」



 シシの複雑な気持ちは、ククにも伝わっていたため、それを咎めるつもりはなく、ククは桃色の魂を抱きしめながら、シシの龍の尻尾に自分の尻尾を絡めた。



「シシ、肉体ができたら、紺色にも触れていい?きっと、魂が剥き出しになってるから嫌なんでしょ?」



「……そうかもしれないけど、分からない事を決めるのは難しいかな。ククは勿論だけど、この子達も傷つけたくはないからね」



「それなら、今すぐに古竜と桃色を会わせてみよう!そうしたら、この子達の真名もつけられる」



「そうだね……そこに創造神も呼ぼうか。そろそろ孫の様子を見たくなる頃だろうしね」



 そうして、シシが眷属達に頼んで古竜と創造神に、茶会の招待状を送り、その後すぐに二人は宮殿にやって来た。

 茶会は外庭でやるため、魂を入れる為の籠を用意し、桜の花弁入りのお茶を出す。



「クク、シシ、おめでとう。久しぶりのククは、少し大人になった気がするね」



「クク……おめでとう。そ、それと……」



 創造神はククの頭を撫でてから、二つの魂が入る籠を揺らして微笑む。

 一方古竜はというと、ククに目を奪われた後、桃色の魂から目を離さなくなり、桃色の魂もまた、古竜の方へ行きたそうに桃色の炎を動かした。



「シシ、モモが行きたそうだよ。でもココは暇そうだ」



「モモ、ココ……それ、呼び名?急な名付けだね」



 ククの急な名付けにシシは戸惑いながらも、苦笑いでククの名付けを受け入れ、桃色の魂であるモモがいる籠を、古竜の膝の上にのせた。






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