第36話 術の相性(sideシシ)
ククが白狼の毛に埋もれている間、シシは白狼から報告を受けていた。
まず、輪廻転生は安定しているようで、冥界の都市についてもシシが知っている現状と、あまり変わりはなかった。
冥獣は都市の管理に追われ、神々の眷属も弟子を決め始めている。
だが、弟子の居場所や修行場がないようで、そのあたりは創造神が動いているらしい。
それと、亡者が増えてしまった事でモノノケに悪影響があるらしく、そのあたりは古竜が対処しているようだ。
「修行中は眷属が付き添って、クク様の神器を使っている。だが、中にはクク様の神器を持ち出し、自分の物にしようとする眷属や弟子がいる。それと、クク様に接触しようとする者も少なくない」
「それは知っている。ククの神器だけで、穢れの原因はだいぶ見つかったんじゃないかな。創造神はどうすると言ってる?」
「輪廻転生で下界に追放だそうだ」
(またイチから魂の修行をさせるのか。まあ、眷属になる事はもうないだろうけどね)
ククは時神になった事で、白狼の言葉が分かるようになったはずだが、無反応で白狼の毛に埋もれている。
シシは、ククがもっと興奮するものと思っていたため、内心驚きながらも創造神が今後どうするつもりなのかと続けた。
「それを話すのは、主と古竜だけだ。それとクク様もか……分かっているだろう。クク様が無事に目覚めたら、会いに来てほしいと言っていた」
「分かったよ。けど、ククが休んでからかな。まだ疲れは残ってるだろうし」
「シシ、父さんの所に行くの?それなら、シシが生まれた場所にも行ける?あそこの風景を記録したい。だから、神器?記録物?も作ってから行きたい」
やはり話が聞こえていたククは、白狼の顔を撫でながら話に加わる。
顔の周りの毛を弄られている白狼は、気持ち良さそうに目を閉じながら、尻尾を揺らしてククの手に擦り寄ると、それ以上は話さなくなった。
「それなら、ククの神器……記録器でいいか。それが完成して、時の術も上手く扱えるようになったら行こうか」
時神になった以上、創造と付与だけがククの術というわけではなくなる。
付与は、あくまで創造神の息子である証のようなものであり、創造は神であれば使えるものだ。
ただ、それぞれの神によって、何を創造できるかは違ってくるが、シシのツガイであるククはなんでも創造できてしまう。
しかし、残念ながら今のところは、塊の創造だけが得意である。
そしてシシも、ククが時神となった事で時間を扱う事ができるのだが、やはりこちらもククの術は不得意である事が分かった。
(魔法付与は神とか関係なく、ククが分け与えられたものだから使えないかな。けど、時間なら……これは気持ち悪いうえに、扱いにくい。ククが塊しか創造できない理由が、漸く分かった)
「シシ?さっきから、時空を歪めてるの?それとも、僕との時間を変えてる?」
「試してるだけだよ。でも、俺は無理そうかな。ククが塊しか創造できないのと同じらしい」
「そうなの?シシなら、なんでもできると思ってた」
「なんでもはできないよ。一見、創造神と同じように、なんでもできるように思えるけど、破壊と再生はいつかなくなったり、壊れたりするものに限る。俺が有限を創造できるのなら、創造神は有限も無限も創造できる。そして俺は、有限を無限にする方法を知っていて、それが破壊と再生。ある程度で破壊し、そして再生する事で、偽りの無限が可能になるんだよ」
ククは、よく分からないと言いたげに首を傾げた。
実際、シシも創造神と自分の違いが分からなくなる時があるが、それでもこの世界を創造したのは創造神であり、自分はその世界があるからこそ存在できるのだと知っている。
だが、無に破壊して新たに再生させる事は可能であるため、創造神ですら恐るほど、シシは創造神に近いのだ。
要は、基盤となる世界というものさえあればいいのだ。
それ故に、シシは魂を無にしても、ただの入れ物となった魂に、命を吹き込む事ができていた。
しかし、時間に関して言えばこれは無限であり、決して停滞する事なく無限に進み続けるものである。
そのためシシには扱いづらく、破壊する事も再生する事もできないものは、どう頑張っても完璧に使いこなす事はできないと感じた。
だが物質の時間という、寿命や劣化といった有限のものであれば破壊と再生に似ているため、ある程度扱う事は可能だ。
「シシの話は難しい。よく分からないけど、シシができない事を僕が補えるのなら嬉しいな。シシも、僕の創造した塊の形を整えてくれる。僕も同じ事をしたい」
(俺のツガイがいい子すぎる。好きが溢れてるのが分かる)
「ククは本当に可愛いね。俺の自慢のツガイだよ」
「シシも僕の自慢のツガイだ!」
ククがシシを愛し、一生懸命シシに愛を伝えようとしている姿が可愛らしくて、シシはククへの耐性をつける事が最優先だと思いながら、ひとりで悶えていた。
だが、そんなシシに抱きついて尻尾を揺らすククに、シシはククをベッドに連れて行って、ククを隠すように抱きしめた。
(あぁ、駄目だ。襲いそうになる。ククはまだ疲れて――)
「シシ、しないの?」
そこでシシは白狼が部屋から出て行った事を確認し、ククをベッドに押し倒して口づけをした。
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