第24話 教え(sideシシ)



 シシは内心焦っていた。

 ククに干渉させなければ、ククの家族がククを思い出し、罪悪感から本当の事を口にする事はないだろうと思っていたのだ。

 だが、神器という物を創造する事で、何がおこるのか予想できないシシは、誰が神器を使うのか創造神に尋ねる。



「シシ、もう一度言うよ。落ち着きな。ククが生と死の狭間で揺れ動いている。これはキミの隠し事を気にしている場合ではない」



 ククは正確には生者というわけではないが、存在はしているため、ある程度の刺激であれば揺れ動く事はない。

 だが、今は慣れた冥界ではなく天界にいるためか、ククの魂に負担がかかっているのだろう。



「クク、おいで。大丈夫だよ」



 シシは俯くククを膝に乗せ、創造神が東屋から一度出て行ったところで、ククが今感じている事を全て聞いた。

 ククは人の感情に敏感であるため、シシが隠し事をしている事にも気づいていて、更に魂の望みと人の思考についても考えていた事を話す。

 そして、神々と自分を比べた結果、生と死の狭間で揺れ動いてしまったようだ。

 これにより、シシは自分がククに惹かれた日のことを話した。

 自分が稚魚であった事と、ククの笑顔に一目惚れした事、それからシシの隠し事であるククの死について、ククの様子を見ながらゆっくり話していく。



「これは、どうしても隠したかったんだよ。ククの心がどうなってしまうのか、俺でも分からなかったから。それなら、俺がククから恨まれた方がいいと思った。実際、俺はククから向けられる感情の全てを愛してるから、辛くはなかったし、他に向けられるくらいなら自分に向けてほしかった……ごめん。俺の干渉がこの争いの原因なんだ」



(ねぇ、クク……俺自身の隠し事は、これで全部だよ。俺だって気持ちを完全に抑えることなんてできないし、白狼も創造神も、それから古竜だってそうだった。別に、無理して神らしくしなくていい。ククはまだ神でもないのに、今から自分の気持ちを押し殺す必要はないんだよ)



 結局のところ、ククは自分を押し殺し、心が大人になる以前に全ての段階を飛ばして、感情を捨てた神になろうとしていたのだ。

 だが、シシはそんな風にククを育てていない。

 シシがククを育てているのに、心のないツガイに育てるなど、あり得ない話だ。



 神であっても心はある。

 善も悪も見てきて、どんなものを悪とし、どんなものを善とするかは、それぞれが考えていく事だ。

 そのため自分達の中で善悪はあるものの、それを決めつけず、口にもしない。

 簡単な話、中立という曖昧さが神であり、神々が善悪を決めつけたように捉えられる下界への干渉は禁じていた。

 だが、神同士や眷属などの間では、また別の話である。



 シシは、まだククには早いと思いながらも、ククが口を開かない間は神について説明し、心を押し殺す事が神ではないのだと繰り返す。



「シシ、ごめんなさい。シシが僕の為に隠してたのに、なぜかあまりショックじゃないんだ。なんとなく、僕が生きているのは都合が悪いんだと思ってた。僕は家族を恨みたくても恨めなくて、その代わりみたいにシシを恨んだ。でも、そんなシシが僕は好き。隠し事は悲しいけど、優しい隠し事は嫌いじゃない」 



(良かった。本当に傷ついてないみたいだね。けど、言うのが早ければ傷ついていた可能性もある)



「それに、僕は下界に干渉するつもりはなくて、ただ僕が子どもだっただけなんだ。下界の事を知らなかったのは、シシのせいじゃない。僕は下界のこととか、家族の様子をシシに訊く事もしなかった。それなのに、シシが隠し事をしてるのをいい事に八つ当たりした。ごめんなさい」



(うっ……可愛い。俺のツガイが、いい子すぎる。というか素直すぎるよ)



 シシは、やはりどんなククでも愛していて、クク自身は謝らなければいけないほど、悪い事をしたと思っていた。

 だが、シシからしてみればククはいい子である。

 この時点で、それぞれの価値観が違うのだから、力のある神が安易に下界へ干渉しない理由が分かっただろうと、シシはククに分かりやすく説明した。



「じゃあ、本当はみんな、何か思うところはあるって事?」



「それはあるだろうね。いい例があそこに二人もいるよ」



 そう言って、シシは創造神と白狼に目を向け、ククは首を傾げながらシシを見つめる。

 そんなククに対して、シシは内心悶えながらも、ククの顔を東屋の外に向けた。



「シシ、父さんは分かるよ。僕に対してもシシに対しても、特別な感情を向けてくれてる。じゃなかったら、真名を教えたりしないでしょ?」



(ククは気づいていたのか。変なところは勘違いするのに、たまに怖いくらい人の感情に敏感だよね)



「でも白狼はシシの眷属だよ。神様とは違う」



「白狼は確かに眷属だけど、俺を主とした死神のうちの一人だよ」



 するとククは目を丸くし、混乱した様子で白狼とシシを交互に見る。

 そして何を思ったのか、ククが口にしたものはシシの予想を超えていた。



「死神はモフモフの神様?それで、白狼はモフモフだから死神?」



(うん……ごめんね、クク。それはさすがに意味が分からない)



「死ぬ時って、寒くて冷たいのかと思ってたんだ。でも実際は温かい。死神の条件はモフモフなの?モフモフで温めてあげるの?」



「死が寒い?それはないよ。モフモフはよく分からないけど、家族や友人がいれば温かいだろうし、いなくても死神がいるからね。寒くて冷たいなんて、そんな死は死神が許さないよ。産まれる時は温かいのに死が寒いなんて、そんな想いはさせない」



 これは、シシが初めに死神に言いつけた事だったが、少し違う解釈ではあるものの、ククが言い当てた事に驚いていた。



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