第3話 運命
オメガとは通常、アルファとツガイ関係となり、子を宿す事ができるようになる。
だが運命のオメガは、アルファやベータに関係なく、唯一誰とでもツガイになれる存在であり、運命のオメガとして産まれた者の意思に関係なく、複数のツガイを持つ事ができてしまう。
そんな運命のオメガは自衛の為に悪臭を放ち、どんなに明るい性格だろうと周りを寄せ付けないよう、表情を無にする。
しかしそんな運命のオメガは、愛されればそれに応えるように表情を柔らかくし、愛してくれる者の好みに合わせた香りを放つようになるのが運命のオメガだと、シシは隠す事なくククに説明した。
(運命のオメガ……じゃあ、やっぱりシシは僕が運命のオメガだから、こうして優しくしてくれるのかな。でも、シシは僕に触れてくれるし、嫌な顔もしない)
「ククは疑ってるみたいだけど、俺はククが運命のオメガだと分かる前からククを愛してるんだよ。ククをずっと見てきた。ククが欲しくて、ククの家族がククを手放すように誘導した。それでも、ククが陸に上がってしまうから、ククを迎えに行く為に、ククの家族にも協力してもらって命を奪った……ごめんね」
衝撃の事実にククは声も出ず、目を丸くしてシシの赤い瞳を見つめる。
そんなククを愛で続けるシシは、ククに全てを理解してもらいたいようで、運命のオメガについて話を続けた。
運命には三種類ある。
アルファとオメガの間にある、産まれてくる際に決められているツインレイという運命のツガイと、自分達の想いや行動によって創りだされ、やがて本物となる運命。
そして、愛を育むように自分だけのツガイをイチから育て、真実の愛を必要とするオメガであり、誰のツガイになろうとも、自分の運命だけは決して譲らない運命のオメガ。
これら三種類の運命は全て違うが、運命のオメガだけは交わる事さえできれば、強制的に誰とでもツガイにされてしまう分、相思相愛になるまでの難易度が非常に高く、時間がかかってしまうようだ。
それを聞いたククは自分のことであるにも関わらず、別人の話を聞いているような気がして、首を傾げてシシを見上げる。
シシはそんなククの頬を撫で、緩んだ表情でククに口づけをするが、ククはシシの口づけを拒絶し、尻尾を揺らしながらシシの服で唇を拭う。
(うぅー……僕の唇にシシの唇がくっついた。シシの唇は、僕にはもったいない)
「ククは可愛いね。尻尾揺らして、嬉しかった?」
「う、うん。でも、唇は嫌だ」
拒絶しながらも素直に肯定してしまうククは、シシから離れるような事はせず、シシの綺麗な和服にシワをつけるほど両手で服を握りしめていた。
ククにとってのシシは、勝手にツガイにされただけでなく、自分を殺す為に家族を巻き込んだ事が許せない存在だが、それを隠す事なく話してくれた事にも感謝していて、ククを愛してくれる事についても好印象だった。
だからこそ、ククのなかでの葛藤が行動に現れていて、クク自身も戸惑っている。
(僕のツガイ……好きも分からないし、ここから恋愛が始まるとは思えない。なのに、優しくされると離れたいとは思えないし、愛されたいと思っちゃう僕は、やっぱりおかしいのかな)
ククは尻尾を揺らし、シシの胸に頬を押し付け、ダラリと力を抜いている。
無意識にリラックスしてしまっているククは、思考と行動が噛み合っておらず、シシはそれを知っているのか、ククを刺激しないように微動だにしない。
それから暫くすると、シシの話が終わった事に漸く気づいたククは再びシシを見上げて、綺麗な顔立ちのシシを間近で見つめる。
(……こんなにかっこいい人が、なんで僕を選んだんだろう。運命のオメガだって分かる前から、愛してるって言ってたけど)
「シシ、もう話は終わったの?」
「ククからの質問がないなら終わったかな。冥界についてはゆっくり教えていくつもりだし、この宮殿内もククがこの環境に慣れてきたら案内してあげる」
環境に慣れてきたら、というところが引っかかったククは、シシから目を離さずにコテンと首を傾げた。
それがシシにとっては、鼻血を出すほど良かったらしく、突然の血にククは白狼の背後に逃げた。
(血だ!僕、シャチだけど血は好きじゃない。大変だよ、どうしよう)
「驚かせてごめんね。ククがあまりにも可愛すぎて……いや、ククのせいにするのは良くないね」
鼻を押さえながら謝るシシは、幸せそうな表情をしているが、ククはシシのことが理解できずに「シャーッ」と大きく口を開け、ギザギザな歯を見せつけて威嚇する。
しかし、ククがどんなことをしてもシシは嬉しいようで、ひとりで悶えているシシは、白狼以外の白いモノノケ達に距離を置かれている。
(この人、本当に冥王様なのかな。怖くはないけど、こんな反応する人は見たことがない。なんで喜んでるのに苦しそうなの。でも、幸せそうに見える……恋って、苦しいものなのかな)
ククにとって新しい発見が多いため、シシの反応を観察していると、シシは疲れたようにベッドに横になったため、ククは尻尾を揺らしながらベッドに近づいた。
すると、シシは先程まで鼻血を流していたとは思えないほど、爽やかな笑顔でククを抱き寄せて目を瞑ったため、ククも観察をやめて目を瞑った。
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