ボーナス出たらうなぎでしょ

鈴木裕己(旧PN/モモチカケル)

ボーナス出たらうなぎでしょ(上)

※本作は連載『落研ファイブっ―何で俺らがサッカーを?!』の下記エピソード辺りを前提にした短編です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330668595987805

本編を読まなくても大丈夫ですが、読むと一層分かりやすいと思います。


※※※


 時は六月。

 一並ひとなみ高校落語研究会改め草サッカー同好会の部活後。


 【野木坂動物園下 割烹かっぽう・仕出し 味の芝浜しばはま】の引き戸に手を掛ける一人の男。

 彼こそ、『味の芝浜』の跡取り息子、三元時次さんげんときじ。 

 三年一組に在籍する十八歳だ。

 そして彼の後ろから店に入る二人組。

 

 猫背の長身が岐部漢太きべかんた―通称・シャモ―。

 三元のクラスメートかつ落研仲間の彼は、チャンネル登録者数十万人を超える『みのちゃんねる』の主にして和装店(新香町美濃屋)の四代目。


 そしてパンダのリュックを背負った小柄な少年が伴太郎はんたろう―通称・餌―。

 部活の後輩であり、ジャカルタのマフィアを従えた剛の者の息子にして、二年七組(海外進学コース)のエースだ。


※※※


「時坊(三元)。今日はボーナス後の書き入れ時だから、座敷は使っちゃダメだよ」

 普段は座敷席ざしきせきでくつろぐ三人だが、今は夏ボーナス後の書き入れ時。

 『味の芝浜』の大女将おおおかみで三元の祖母・みつるが釘を刺す。


「ばあちゃん、ここの席なら良いだろ」

 三元は入り口近くの四人席に掛けると、タオルおしぼりで信楽焼しがらきやきの狸のような顔を拭いた。


「それで、シャモ。今日は美濃屋みのやに帰る日だっけ、それとも『お百度参り』邸?」

 三元の問いに、シャモは『ウチ(美濃屋)』とだけ答える。


 シャモが配信する『みのちゃんねる』の企画で、『お百度参り』こと藤巻しほりに一目惚れされたシャモ。

 彼女が欲しくてたまらないシャモには願ったりかなったりに思えたが、蓋を開ければあら大変。


 戦前にはお目通りも叶わぬほどの名家・藤巻家の御令嬢であるしほりは、『お百度参ひゃくどまいり』事件なるストーカー騒動を起こした過去を持つ。

 しほりが行使する人智を越えた力に翻弄され、記憶がないうちに『既成事実』を作られ、外堀を埋められ、気づけば婚約。

 そんなシャモは、しほりとの交際開始以来げっそりとやつれ果てている。



「リムジン連れ去り事件から結構経ちましたよね。何か変化は、結局まだ『お百度参ひゃくどまいり』に取りつかれたままですか。」

 子パンダのような見た目のえさが、興味津々にシャモをのぞき込む。

 白昼堂々落研部員の目の前で、リムジンで連れ去られたシャモ。

 それ以来、シャモは学校と自宅(新香町美濃屋)と『お百度参り』邸の『魔のトライアングル』を描き続けるばかりなのだ。

 それも、しほりと会っている時の記憶を消された状態で。


「俺の変化? 英会話と簿記ぼきスキルが上がったぐらい」

 毎度毎度リムジンに乗せられてから降ろされるまでの記憶が、藤巻家家令かれいによる英会話・簿記ぼき・中国語初級講座以外すべて飛んでいるシャモは、苦々し気に吐き捨てる。


「予備校かよ」

「笑い事じゃねえんだよ」

 ぶっと噴き出す三元さんげんに、シャモは肩を落としつつこぼす。


「高三の夏までに俺が欲しかったのは『普通』の彼女。『アレ』じゃない。花火、海、キャンプ。俺は高三だ。制服姿で一緒に下校するラストチャンス。それを寄りにもよって。そもそも餌のせいだぞ。責任もって何とかしろ」

 餌の小学校の先輩である江戸加奈が、しほりを連れて『みのちゃんねる』の視聴者参加型企画に来たのが運の尽き。


「あの企画でエロカナを選んだのは天河てんが君です。僕は関係ありません」

 餌は江戸加奈をエロカナと呼ぶ。

 小学三年生の時に日本に移住して以来、餌の女王様として君臨する加奈。

 何度か下克上を試みるも、そのつど手ひどい教育的指導を受けて今日に至る。

 そんな餌にとっては外道な加奈に、ビーチサッカーチーム『落研ファイブっ』の助っ人・天河が一目惚れ。

 たで食う虫も好き好きとはまさにこの事だ。


「でもその後練習試合に呼んだのは」

「乗り気だったのはシャモさんでしょ。全く往生際おうじょうぎわの悪い。こんな男の何が良いんだか」

「一言一句同じセリフを母ちゃんに言われたわ」

 シャモはテーブルに突っ伏すと、やってられねえとつぶやく。

 そこに、がらりと引き戸の開く音がした。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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