謝ってやってもいいかなという気になっていた。
ちりとりと箒ってどこで売っているんだっけ、と頭を抱えながら街にでた。
自分の人生に無縁だったものは、いざ買おうと思ってもどこで手に入るのかがわからない。
夏休み中の街中は人間が芋洗い状態に配置されていて何度も行き詰まる。
なんだここは。
高難易度ダンジョンか。
突き刺すような太陽の熱攻撃に、夏目慧は干からびかけていた。
どこかに自販機でもないかと周囲を見回して、四車線挟んだ道路の向こうに見覚えのあるシルエットを捉えた。
ずんぐりとした電動車椅子が通りの向こうを自分と反対方向に進んでいる。
バッテリーを積んでいるぶん普通の車椅子より重量感があり、人込みの中でも目立っていた。
風が吹き抜け、座っている少女のいつもよりさらに濃くなった赤毛がふわりと揺れた。
珍しく制服姿ではなく、薄黄緑色のワンピースを着ている。
謝ってやってもいいかなという気になっていた。
きちんと説明しなかった自分も悪かったし、代替品にされて怒る理由もなんとなくだが理解できるつもりだった。
義足の完成には月島マリの協力が不可欠だったし。
声をかけようとして手をあげたとき、少女の周囲にいた人が綺麗にはけて、少女が一人ではないことに気づいた。
車椅子を押している人がいる。
そういえばデートだとか言っていたか。
瞬間、夏目の足が地面に貼りついた。
首だけが二人を追って一八〇度回転し、限界点に達してそれ以上動かなくなると今度は身を捻って通り過ぎる二人を凝視した。
車椅子を押しているのは――
深雪の兄が何故ここに?
そもそもなんで月島マリの車椅子を押している?
確か彼女が死んでからあの男も精神を病んで休職していたはずだったが……そこまで考えて月島マリの髪型に合点がいった。
脳裏で祐介の声が再生される。
〝担当美容師とデートだってさあ〟
彼女そっくりのあの髪型はこいつの仕業か。
嫌な予感がした。
自分と同じくらい、もしかしたらそれ以上にこじらせている鷹浩が月島マリになんの用があるというのか。
無意識に四車線を突っ切ろうとしてクラクションが盛大になったが二人はこちらに見向きもしなかった。
左右を見回してもしばらく横断歩道どころか陸橋もない。
小さく舌打ちをして、反対車線を維持したまま夏目は踵を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます