第50話 最後の合体
「最後の、合体……まさか!? ありえません、現代の人間がそれもただのガキができるわけ……」
これから起こることを察したディリュードは急に焦り出した。その情けない身振りを見たバスターは小さく微笑むと、その兄妹全員が同時に光となってシンスケの体に集っていく。
「シンスケ……あとでトモミに謝っといてくれ……一緒に居てやれなくてご────」
「バスターさん……」
伝言をまだ言い切ってないのに、王之鎧の五人の肉体は完全に消失した。名前を呼んでも今までのような返事が返ってこない。
「合体なんてさせませんよ! 今のうちに嬲り殺してやります!」
ディリュードは吸収した力を全て拳に乗せて少年に殴りかかるが、シンスケは俯いて目を閉じたままの状態でそのパンチを受け止める。
彼が立つ地面もその背後のビルもディリュードの拳の衝撃波で勢いよく吹っ飛んだのに、受け止めたシンスケ本人はびくともしない。
「ただのガキが……たった一人でこの私を止めたというのですか!?」
シンスケの体には汚れとホコリが付いているものの、受けた全ての傷はもう完全に回復していた。
「……一人じゃねぇ、俺たち全員の力だ! ディリュード、お前に引導を渡してやる────
少年の体から光と溢れて出て、今までバスターたちよりもっと近代的な装甲を形作っていく。真紅だった装甲もシンスケの優しさが反映された爽やかなスカイブルーカラーへと変わる。
鎧の合体が完了すると、隙間から風が吹き出されて胞子の霧を一気に晴らしていく、そして同時に破壊された建築物や民間人の傷をも癒す。それはジェネシスが持っていた回復能力が最上級の出力になった証拠である。
「シリーズNo.06────
「パーフェクト……ケイゼル……」
ケイゼルはもはやシンスケの体の一部と化しているので、思考に対して一切のズレなく即実行が可能である。
0.1秒も満たない時間で脚部が超高温に加熱して地面を溶かすも、次の瞬間には噴出した風で完璧に修復する。ディリュードを掴んだまま亜光速で上昇して大気圏に突入すると、抵抗する隙を一切与えることなく隕石のように他大陸の荒野地に落とす。
「ゴホゴホ、何のつもりですか!?」
「お前と戦ったら水吏街が更地になっちまう、だから誰もいない場所に連れてきた」
彼の意思に反応して外面の装甲が体から離れ、右手に装着されるように巨剣の形に合体する。今のシンスケであればどのような形の武器でも変形可能だけど、今まで積み重ねてきた経験を元に一番使いやすい武器を選んだ。
「良いでしょう、私もキミと同じです……邪魔するなら殺すだけ」
ディリュードは体を圧縮してより耐久性を上げた。持てる最大の力で大地を踏み、音を超えた速度で彼に襲いかかる。
シンスケの兜には迫り来る敵への攻撃の最適解が演算されていたが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに巨剣を真正面に振り下ろす。
硬化したディリュードの腕とぶつかって巨剣は弾き飛ばされてしまうが、シンスケは即座に一歩後ろに踏み込んで自分の拳をぶつける。
「何が完全体ですか、この程度──」
「ハァっ!」
弾かれた巨剣が空中で自己分解して再びシンスケの体に戻って、押し負けないように籠手のブースターとして再構築。関節や肩から蒼い炎を吹き出すと、押し込みの馬力は爆発的に増強する。
「オラあああッ!」
硬化したディリュードの腕を無理矢理砕くと、シンスケの重い拳はディリュードの顔面に届く。顔でそんなパンチを受け止めきれるはずもなくディリュードは勢いよく殴り飛ばされるも、シンスケは速攻で距離を詰めてきて彼の顔面をわし掴みする。
背中のジェットパックで落下速度を速めて頭を地面に押し込む。地面は硬い岩石で構成されているはずなのに、二人の戦いを前にすると豆腐よりも簡単に崩れてしまう。
「離しなさい!」
ディリュードはあえて体を自爆させてシンスケを退かしてから、散ったバラバラの肉片で再び集って復活してみせた。
期待はしてないが、シンスケは予想通り自爆を直撃しても全くダメージが入らない。
「悪惑の再生能力って本当に厄介だな」
シンスケは変身前に引導を渡すと話したがその言葉に嘘偽りがなく、現にそのスペックは何もかもディリュードを上回っている。
考えたくもないけど力を持つが故にディリュードは察してしまう、この人には勝てないと。
勝てないなら、勝てる可能性が一番高い方法を取るまで。
そう、逃げるんだ。
逃げて、また力をつけてリベンジすれば良い……考えを行動に移そうとしたその時、シンスケが話しかけてきた。
「無駄だよ、お前は逃げられないから」
「なっ!? なぜ私の思考を──」
「お前が逃げるところ、もう見てきたから」
その言葉の意味を理解できずにいたが、ふとシンスケの足を見ると稲妻と煙が出ている。吸収した悪惑の記憶を通じてシンスケの行動を理解してしまった。
「まさか……タイムトラベルしてきたのか……」
「ディリュード、お前に明日は来ない。俺がここで終わらせる」
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