第48話 エンドゲーム

 バスターとカスミが大樹に侵入してから約2時間が経過。


 シンスケは街中で暴れていた数十の悪惑あくまを引き連れて、カムイと共に大樹の根元の市役所付近で戦っていた。

 何とか数を減らしてもまたすぐ新しい個体が産み落とされてしまうので、それなら最初から大樹の根元で戦った方が効率良い。


『レイジーカウンター……レベル4』


 ジェットの籠手は戦えば戦うほどカウンターが乗っていき、それに伴って打撃の破壊力も上昇していく。

 シンスケは刺突攻撃を放ってくる人型の悪惑の槍を左手で弾いて、怯んだ隙に右拳で頭を粉砕する。


「──ッ! 仮面は顔じゃないのか!」


『殴った時の波動的に多分心臓部にある!』


 悪惑の唯一の弱点である白い仮面、大樹から産まれた悪惑は全員それを体内に隠している。このように弱点だと予想して攻撃してもよく外れる。

 再生させる前にもう一度パンチを喰らわせようとしたが、横から別個体の悪惑が邪魔してくる。仕方なく後退りしたシンスケは大声を上げた。


「カムイ! 槍の悪惑の心臓にトドメを刺せ!!」


 槍の悪惑が頭を再生させながら槍を投げる構えをした次の瞬間、背後から鳥の甲高い叫びにも似た音と共に雷の太刀が飛来してその心臓を打ち抜く。体内の仮面を破壊されたことで槍の悪惑は氷のように溶けて消える。


 しかし、一体を倒したところで喜ぶ隙ができるはずもなく、ムカデ型の悪惑がシンスケの足を狙って地面下から飛び出る。

 ジェネシスはすかさず翼の制御を奪ってシンスケの体を浮かせて回避する。


「うっわ! ジェネシス、ナイス!」


『わかってたけど……キリがないよこれ!』


『シンスケ兄ちゃん、うしr──』


 ジェットの言葉に気づいて振り向いた瞬間、ビル登ってジャンプして来た人猿型の悪惑が筋肉隆々の両腕を振り下ろす。

 反応しきれないシンスケの代わりに、コアは全装甲を背中に流動させて人猿の悪惑の攻撃を防ぐも、今度は地上にいる蜘蛛型の悪惑が無防備のシンスケに糸を吐いて捕捉する。


「やばっ──」


 蜘蛛の悪惑とその糸が思ったよりも強靭で、逃げられないシンスケは悪惑に振り回されて地面やビルの壁に激突する。


「逃げらんねぇなら!! コアさん、ジェットくん!」


 腰に纏わりつく糸を両手で掴んで体勢を整えると、シンスケはあえて蜘蛛の悪惑に向かって飛び込む。

 不意打ちに近い形で悪惑に体に触れると、コアの装甲は籠手に流れてキャノン砲を形作る。一瞬全身のエネルギーを両手に集中させて砲火を喰らわせる。


「レイジー──」


『バーストッ!!』


 バスターやカムイ程までとはいかないが、シンスケが放った爆撃は蜘蛛の悪惑の体を半壊させた。爆煙が散る前にもう再生をし始めたが、シンスケは即座に残った体ごと仮面を砕いてトドメを刺す。


「まだまだいける」


 立ち上がろうとしたその時背後から爆発音が聞こえたと思いきや、爆風と共にカムイがすぐそばまでに吹き飛ばされて龍との合体を解除する。


「カム──」

 

 シンスケは駆け寄ろうとするも、先程襲ってきた人猿の悪惑がシンスケを横から容赦なく蹴り飛ばす。そしてそのままジャンプして、シンスケが着地する前に上から地面に叩きつける。


「がはっ……」


 起きあがろうとするシンスケを思いっきり踏みつけると、シンスケは抵抗できないままアスファルトの道路にめり込む。それでも悪惑の踏みつけは止まらない、シンスケの体を中心に道路のクレーターは少しずつ大きくなっていく。


 そんな状態でもシンスケは諦めることなく悪惑の踏みつけのタイミングに合わせて、背中のブースターを噴射して飛び上がるも速攻で体を掴まれて投げ飛ばされる。勢いよく飛ぶシンスケはビルを3、4棟ほど貫通した後にぶつかった電柱でやっと止まて落ちる。


「ゴホゴホ、ゴッ……カムイ……たすけなきゃ」


『あのクソゴリラァ!! ぶっ殺してやるから待ってろー!!』


『ジェネシス、頭を冷やしなさい。シンスケさんの回復とカムイの救助が最優先です』


『ご、ごめん……』


『あ、兄ちゃん姉ちゃん! 木! 見て見て!!』


 何とか顔を動かして言われた通り大樹に注目すると、白き大樹の表皮に大きな亀裂が入った。亀裂はバリバリと大きくなっていき、中から眩しい白光が漏れ出す。

 離れた通りで光に照らされたカムイと雷龍は意識を取り戻す、そして彼女たちを取り囲む悪惑たちは電源が切れたオモチャのように一斉に静止した。


「成功……したんですね……」


 亀裂が全体に万遍なく広がると、大樹は石化して風に煽られるだけでポロポロと崩れ落ちていく。

 僅か1分にも満たないうちに、天にまで届いた大樹は呆気なく消えた。残った藍沢とカスミはバスターに抱えられて市役所屋上から飛び降りる。


「街が……」 


「カムイさん!」


 藍沢は戦闘で変わり果てた街の姿に驚いていると、カスミは満身創痍になったカムイの元に駆け寄る。


「……シンスケたちはどこだ? 姫さ──」


「私のこと忘れてませんか?」


「え──」


 そう、解決すべき問題は大樹だけではない。

 バスターは背後から迫る攻撃を両手で受け止めるも、その威力に耐えられず打ち上げられて突き飛ばされてしまう。


「大切な養分は逃しませんよ」


 そう言うとディリュードは藍沢とカスミを捕まえて体内に取り込む。エネルギーの回収はそれだけで止まることなく、ディリュードが指を鳴らすと静止していた全ての悪惑が仮面の姿に戻って、主であるディリュードの元に飛来してその顔に重ねていく。

 大樹が生み出したエネルギーを全て吸収したディリュードは偽装を解いて、体を3倍以上に膨らませて大悪惑としての本来の姿を取り戻す。


「お遊びはこれでお終いです。キミたちを殺した後、もう一度新しい大樹を育ててみせますよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る