空転衛星
木目ソウ
第1話
「夜は夕方をつつみこむ。だからあなたは妹。そして、私は姉。私のことはお姉さまと呼びなさい」
私が自我を手にいれた時、夜式—―お姉さまは、そういった。
ZT1152410夕式。
これは私の個体識別コード。
ZT1152410夜式。
これはお姉さまの個体識別コード。
博士は、理由は不明だが、夕式から感情調整システムを排除した。
簡単にいえば、人間らしいふるまいができない。
しかし、システムがくみこまれた夜式には、同個体への思慕の念がある。
夜式は私を用いて、姉妹のまねごとをしている。
月に隣接するちいさな惑星がわたしたちの任務地だった。
生き物がいない、資源もとぼしい、価値のない惑星だった。
ここから、黒い煙がただよう私たちの母星—―「青い星」を観測できた。
未来の話だけれど、青い星のどこかで、膨大なエネルギーを内包した、危険なミサイルがとぶ可能性があるようだ。
私たちは、特殊な電波を体に内包していた。月の光で発電をおこない、私たちはたえず、その電波をつくりつづけた。
電波は、電子器具に支配された、ミサイルの軌道を、この惑星にみちびくことができる。もしも発射にいたれば、私たちはミサイルに電波をおくり、国の盾になる。
惑星での生活は暇をもてあました。
暇な時間にやることといえば、砂遊びか、お姉さまのお説教をきくか、流れ星の数をかぞえるか、くらいしかなかった。
「お姉さま、ひまですね」
「ひまなことはいいことよ。だって、平和の証だもの」
「あーぁ、早く、ミサイルとばないかなぁ」
「夕。ミサイルがとぶということは、この惑星の消滅、つまり私たちの消滅とひとしいのよ。あなた、わかっていっているの?」
「でも……ずーっとおんなじ空をみていても、つまんない!」
「おんなじ空を維持することが、一番むずかしいことなのよ。ホラ、私たちのすんでいた星をみてごらんなさい」そういって、黒い煙につつまれた、星をゆびさした。
私たちが「青い星」を旅たつ時、地表をおおう膨大な液体は、青色をしていた。
お姉さまは、ロケットのなかで「あの液体は、ウミというのよ」とおしえてくれた。ウミは、青い、大量の液体であった。魚介類と、大量の神秘がねむっている。
現在、この惑星からみえるウミは、醜い黒色に変色していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます