comet 〜忘れられた魔法使い達〜
@arisaka_novelist
序章 魔法使い達の夜明け
魔法使いそれは古くから魔女、魔術師、陰陽師など様々な形で人々と共に生きていた。
それらの存在を人々は畏れ敬い、ときに恐怖し、迫害をしてきた。
そして魔法使いの迫害として有名なのは、魔女狩りだろう。
これにより大陸各地では数万の人々が犠牲となり、魔法使いとされる人物たちは、ほとんどが姿を消し、わずかな生き残りたちは、その力を使わず日陰で生き続けた。
そして、魔法使いは息を潜めたというが楽なことではない。
なぜなら個性豊かな髪色、人の目にわかる程溢れ出る魔力、それらを何時何時いつなんどきも隠し通さなければならないからである。
そのために生き残った僅かな魔法使い達は、ある決断を下した。
それは……魔法を捨てるということーー
方法は複数種類の薬草から魔法により成分を抽出、高度な魔法によって生成されたカプセルのような物に封じ込めるというものだった。
その薬は様々なルートによって各地に運ばれ、摂取されたため、この世から『魔法』は存在しないものとなるはずだった……
時は過ぎ21世紀が始まりしばらくした頃、北の国ザルマン帝国で新たな生命が産まれようとしていた。助産師達は慌ただしく動き回り、父親のような人物は母親の手を握り我が子の誕生に胸を馳せる。
そして、双子のうちの1人が取り上げられ産声をあげる。
父親は顔をほころばせ我が子の誕生に様々な感情が込み上げる。
しかし、幸せな時間も束の間、突然母親が尋常でないほどに苦しそうにもがき始める。
「心拍数チェック! 」
「早く赤子を取り上げろ! 」
などと助産師達は怒号を飛ばし合う。
父親はひたすらに母親に声をかけ続けた。
そして、父親は妻の名前を叫びつつ応援に駆けつけたスタッフに部屋から押し出された。
数時間が経っただろうか、手術室から医師が出てきて父親は医師に駆け寄り、食い気味に
「妻と子どもは! 」
というと、医師は無表情な顔で
「残念ですがあなたの奥さんは亡くなりました」
と淡々と告げる。
父親は力なくその場に崩れた。
しかし医師は続けた。
「ですが子どもは無事です」
父親はハッと顔を上げた。
医師はなおも続ける。
「しばらくお子さんの様子をこちらで診させてもらいます」
そう言い残し部屋に戻っていく。
そして、部屋に入った医師は保育器に入った2人の子に目を落とす。
その姿は……透き通るような銀髪で靄とは明らかに違うオーラのようなものを放っているーー
そして静かに
「なんだこの子達は……」
と呟き何処かに電話をした。
それほど時間が経たないうちに黒服の男と白衣を着た男達がぞろぞろと部屋に入ってきた。
そして男達は何も言わずに保育器ごと運ぼうとすると共に医師に分厚い封筒を渡しすぐに出て行った。
外はすっかり闇夜につつまれ、赤子達は裏口につけてあったワゴン車に乗せられ、車は走り出す。
そして最後尾に座っていた一人の白衣を着た男がポケットの中で小型のボタンがついた装置を密かに押した。
その間も車は走り続け、しばらくすると青信号の交差点に差し掛かり、その瞬間鈍い音と共に車内に衝撃が襲う。
そして、一回転して車は停止した。
「うぅ……」
と男たちがうめき声をあげていると扉が勢いよく開き、HK45にサイレンサーを装着した覆面達が男達に向かって発砲し、パシュッという気の抜けた音が数回した後、撃たれた男達は首をガクッと落とした。
覆面達は丁寧に保育器を持ち上げ、バケツリレーで別に用意していたワゴン車に積み替えようとしたが、1人を積み替えたところで突然悲鳴のような音を立てて地を滑るように曲がってきた黒塗りのSUVが2つ前の交差点から現れる。
そして、SUVの天井のハッチが開きAS Valを持った男が覆面達を乾いた音を立ててフルオートで覆面達を撃ち始める。
弾は地面やワゴン車に着弾し、火花を立てる。覆面の1人が撃ち返し、フロントガラスに複数が着弾するがヒビが入るだけで効果がない。覆面達はアイコンタクトをして双子のうちの1人を残し車に乗り込みアクセルを思い切り踏み逃走した。
SUVもその後を追いかけ、男はまた撃ち始める。
弾はワゴン車のバックドアやリアガラスに被弾し、リアガラスに穴が開く。
男の銃の弾切れたのか射撃が止んだ。
「おい、これ防弾って言っただろ! 」
助手席の覆面が運転手に文句を言う。
「それはボディだけだ。ガラスはノーマルだ」
運転手は顔色一つ変えずに言った。
「なんでそんなことしたんだよ! 」
運転手の左後ろの覆面がツッコんだ。
「仕方ないだろ、ガラスは防弾にすると分厚くなるんだ。検問でバレる」
運転手は急に真面目な顔で言う。
続けて
「あと、高いしな」
と運転手は言って、乾いた笑い声を挙げた。
「やってられっかよ! 」
助手席の覆面は悪態をついた。
「嫌なら降りてもいいんだぜ」
運転手の覆面はニヤつきながら助手席をチラッと見る。
助手席の男は運転手を睨み舌打ちをする。
SUVの男はスーツの中に着ていたリグから予備のマガジンを取り出し、空のマガジンを後ろから新しいマガジンで弾き出すように銃から外し、新しいマガジンを装填する。
リロードを終えたSUVの男が再び射撃を始める。
「おしゃべりはいいが、撃ち返さなくていいのかい」
運転手の後ろの覆面が呆れながら言う。
後部座席の左に座っていた覆面がため息をつきながらスライドドアを開け、半身を乗り出し、SUVに反撃する。
しかし男が怯み頭を少し窄めるだけで、SUVに関してはフロントガラスにヒビが入ったり、ボディがへこむだけで全く効果がない。
「そいつは対人用のホローポイント弾だ。対物には効果がない」
隣に座っていた覆面が呆れた声で伝え、自分の持っていた赤いテープの巻かれたマガジンを渡す。
反撃していた覆面はHK45のマガジンを自重で落下させ、素早く受け取ったマガジンを装填する。
テープには『+P』と書かれている。不測の事態に備えて持っていた通常より威力が強い強装弾だ。
SUVのフロントガラスに向けて発砲するがまたヒビが入るだけだ。
「あっちは全て防弾かよ……! 」
覆面が射撃しながらそう小言を言うと。
その瞬間SUVの男が射撃したうちの1発が半身を乗り出していた覆面の眉間を撃ち抜き、覆面はそのままワゴン車から落車した。
隣の覆面はすぐさま交代し、手榴弾のピンとレバーを抜き捨て、心の中で3秒数え、SUVに向けて投げつける。
数秒の間の後、後方で耳をつんざくような轟音が響き渡り、爆発によってバランスを崩したSUVはそのまま電柱に激突し、大破する。
しばらくした後、覆面達は遠くのサイレンの音を聞きながら追手を撒いたことを確認し、港湾へと向かい自動車をコンテナに停め、待ち構えていた仲間の作業員達がコンテナの扉を急いで閉じ、クレーンで巨大な貨物船に積み込まれた。
数時間後、ブォーという体を揺さぶるような汽笛が鳴ったのち船は動き始める。
そして、巨大な貨物船を朝日が照らし始める。
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