ハップル⭐︎ビンボー回顧録

大造

第1話 写生

 息子「ねーねー、かあちゃん」

 母「んー、どうかしたー?」

 息子「明日学校の図工の時間に色鉛筆使うんで持ってこいってー」

 母「・・・・・・」

 息子「かあちゃん、聞いてるー」

 母「ん、ああ、そうなの・・・・・・。うん、わかったよ・・・・・・。そうだ!明日の朝渡すわね」



 翌朝


 母「はい、これ」

 息子「あっ、色えんぴつー。ありがとう」

 母「あっ、待って!今開けないで、図工の時間に開けなさいよ。なんでも、ホイホイ開けないの!運が逃げるわよ。まったく・・・・・・」

 息子「運ってなんだよー・・・・・・。まあ、いいや。行ってきますー」


 4時間目 図工


 先生「みなさん、画用紙は届きましたかー?」

 生徒一同「はーい」

 先生「写生という絵の書き方をやってみますー。すごく簡単に言えば、描くものをそのままそっくりに描く事を写生といいますー。みなさんの前には一輪のお花がありますねー。このお花をなるべく本物に似せて描いてみてくださいー」

 生徒一同「はーい」


 生徒A「先生ー」

 先生「はい、Aさん」

 生徒一名「写真みたいにリアルに描くってことですか?」

 先生「はい、そうです!Aさん、今、良いこと言いました。写生の写は、写真の写と同じ漢字です。うつすと読むことも出来ます。ありのまま、正直に目の前のお花を画用紙に写してみてくださいー。はい、他に質問はありませんか?」

 生徒一同「・・・・・・」

 先生「それでは、みなさん色えんぴつを出して始めてください。えんぴつで下書きをしても構いません。はじめから色えんぴつで描いても構いませんよー」


 生徒一同 ガヤガヤガヤガヤ。


 息子「・・・・・・。えっ。マジか・・・・・・」

 生徒B「どうかしか?」

 息子「ううん、別に・・・・・・」


-しばらく-


 先生「ん?どうした?そろそろ時間だぞ」

 息子「いやいやー」

 先生「下書きはすごく上手に出来てるじゃないか-。あとは時間まで色を加えてみなさい」


 息子「・・・・・・。いやー、ちょっと・・・・・・」

 先生「んー?どうしたのー?ほら、せっかく持ってきたその色えんぴつ使ってー」

 息子「いや、使ってって言うかー。なんて言うかー」

 先生「ほら、もう時間ないぞー。同じ花びらでも色の濃いところと薄いところがあるだろうー。ちょっといいか?黄色の濃い薄いをこの同じ色鉛筆の・・・・・・、えっ?あれ・・・・・・??」

 息子「あーーー、先生、先生。しーーーー」

 先生「え?嘘?すごっ!・・・・・・これどうしたの?」

 息子「・・・・・・かあちゃんが・・・・・・」


 先生「近くから見ても、ぜんぜん分からない!揃った色鉛筆だよ・・・・・・なあ?」

 生徒B「えっ!本当だ!隣にいたけど、ぜんぜん気付かなかった!色鉛筆がただ箱に入ってるだけかと思った。すげー、すげー、みんな見てみてー」


 生徒一同 ガヤガヤガヤガヤ。


 先生「はい、はい。もう、みんな見たかな?これが本物の写生ですー!先生も完璧にだまされましたー。はい、拍手ー」


 生徒一同 パチパチパチパチ。


 息子「あっ・・・・・・。ど、どうも」

 先生「はい、チャイムが鳴ったのでここまでですが、興味のある人は休み時間によーく見ておくようにー。いいですねー?」

 生徒一同「はーい」

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