第10話 魔王来店(3回目)

今夜のコンビニバイト十日目。




ピロリロピロリロ




「い....何しに来たんですか当分の食料は最近あげたじゃないですか」




ででーんと魔王が来店した。もう3回目だ驚かない。




「食料をもらいに来たぞ」




話を聞け難聴なのか。


魔王は、店内を回って並んでいたカツサンド三つを全てカゴに入れてレジに持ってきた。




「前に食べ物あげたでしょう何でこんなにすぐ来ちゃったのまさかもうなくなったの?」




捨てられた猫に話しかけてる気分だ。




「なくなった」




胸を張ってはっきりという魔王に嘘をついているわけではない事は分かるが、どういう事か、疑問が残る。




「5000円分の食料ですよ。かなりの量でしたよね?まだ五日もたってない気がするんですけど」




「皆でお腹いっぱい食べたらなくなった。空き缶拾いの上手い山田も、河原での洗濯の仕方を教えてくれた伊藤も、テントの貼り方を教えてくれた松本も、泣きながら美味しい、ありがとうって食べてたから、我はもっと食え、お腹いっぱい食えって、皆で宴を開いたら、すぐ無くなってしまった」




ちょっとまってくれ。目が霞んで前が見えない。




「どうしたのだ?坊主よ顔を覆って」




「ちょっとまって財布取って来るから」




俺の給料全部持っていってくれ...。




ピロリロピロリロ




「ちょっと魔王様!まーたここに来て食べ物をねだってるんすか!」




エルフメイドさんがコンビニに駆け込んできて、魔王のマントを引っ張った。




「ダメっすよ!迷惑っす!ここはそういうところじゃないんすから!」




エルフメイドさんは人間界の常識を分かっているまともな人だった。


今日は赤い大きく胸元の開いたドレスを着ている。


だが俺はその健気な姿を見て余計に二人に美味しいものを食べさせてあげたいと思ってしまうんだ。




「で、でも...我は、また食料をもらって来ると言ってしまったのだ...山田達はもう死ぬ前にお腹いっぱい食べれて幸せだったと言っていたが、いつもお世話になっている恩返しがしたいのだ」




「いいよ!俺が払うから!エルフメイドさんは下がってて!」




「そんなわけにいかないっす!全くの他人の見ず知らずの店員さんにお金を払わせるなんていいわけないっす!このままだともらえるからとまた魔王様がダメな子になってしまうっす!これは魔王様の為なんすよ、少しは我慢を覚えないと」




母親が、子供の為を思って怒っている。


そんな風に思った。


俺は、この二人の絆を深く感じて目を閉じて鼻をすする。




「前にくださった分はあたしが責任持って支払うっす。もう少しだけまっててくださいっす」




何ていい子なんだこの子は...魔王とコンビで俺の涙腺を刺激して来る。




「魔王様も、ほらうちにはお金がないんすから、カツサンドを返して来るっす」




「お金ならある」




魔王は、妙に真剣な声色でごそごそと鎧をまさぐった。




「いいんですよ金貨は...」




俺とエルフメイドさんは、魔王の鎧から出てきた布切れ風呂敷から出てきたじゃらじゃらとした沢山の小銭を見て目を見張った。




「ちゃんと、人間のお金だ」




思わず呟いてしまった、魔王の紫の布切れ風呂敷には100円が一枚、10円、1円と石ころがごろごろ出てきた。




「えっ...これどうしたんですか」




「山田と空き缶をいっぱい拾った。伊藤と河原で綺麗な石を拾った。松本と自販機の下のお金を拾った」




魔王は、両手に大事そうにお金を乗せると、俺に献上するようにお金を差し出した。




「我はお金の計算の仕方がわからない。だから計算してくれ坊主。これでこの店のカツサンドは買えるのか?買えねばまた来る、から」




全部で248円。


あと少しの所カツサンドの300円まで足りなかった。




「足りますよ。ちょうどぴったりです」




俺にはできないよ、エルフメイドさん。


こんなに健気な君達に、何もしてあげられずにそのまま帰すなんて。




「本当か!?そうか...そうか、我は、初めて人間のお金で買い物ができたのだな」




「本当にぴったりなんすか?」




エルフメイドさんが涙をこらえて微笑んでいた。


きっとわかっているんだろう。




「はい。ぴったりですよ」




情けない泣きそうな声で答えた。


俺ほんとこの人達が来るとき何でこんな涙腺緩くなるんだろう。


あの横暴で、カツサンドを金払わずに寄越せと言ってきた魔王様が、ちゃんと自分のお金で、しかも誰かに買う為にカツサンドを買うなんて。




「ありがとうございました。またどうぞお越しくださいませ」




力強く答えた深夜3時。


本当に嬉しそうに袋に入れたカツサンドを抱きしめた魔王様と、




「よかったっすね、魔王様」




にっこり微笑むエルフメイドさん。


そんな暖かな空気を、




ピロリロピロリロ




1人の来客がぶち壊す。




黒いパーカーに、黒いキャップ、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで来店してきたのは、忘れもしないクソイキリ勇者ユーチューバーだった。




「あ」


「あ」


「え」




魔王とエルフメイドさん、勇者がばったりとまさにばったりという感じで目があった。




魔王と勇者、普通は敵対する者同士どうなるんだこれ.....。


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