第29話 はるか昔からの優しいサポートだった

 暗黒騎士ゾルゲは自分の前に並んでいる2人を見た。


 聖女カタリナと守護騎士神宮悟じんぐうさとるが並んでいた。


 2人とも黙り込んでいた。


 しかし、2人とも少しも不安を感じていないようだった。


 隣にいる存在が、お互いの心を守っていた。


 ゾルゲは思った。


(ああ、この2人は完全な聖女と守護騎士だな。さらに2人とも、心の深い深い底に隠しているが。お互いを愛している)


「返事は決まったのかな。たぶん、今の我と神宮殿が戦うとすると、生死にまで直結するかもしれない戦いしかあり得ない。ただ、お互いに大切な経験ができる」



 一瞬のことだった。


 聖女カタリナと守護騎士神宮悟じんぐうさとるは目を合わせた。


 お互いの気持ちを完全に理解した。


 神宮悟は真剣な顔で話し始めた。


「ゾルゲ様。私の方からもお願いでございます。真剣勝負をお願い致します」


「そうか。我とけいとが戦うとすると、この現実世界の中の空間では不可能だな。無限の広さと強度をもつ仮想空間を造るので、明日まで待たれよ」


「わかりました―― 」


「どうかな。明日まで時間がある。2人とも王宮にいかれないか。ゲルト王国の国王ゲルマン殿下に謁見しないか。我が案内する」


「わかりました」


「それでは我の後のついて来られよ」


 暗黒騎士ゾルゲを先頭に、カタリナと神宮悟は王宮に向かって歩き始めた。


 やがて、王宮の城門をくぐったが、そこを守る衛士はゾルゲに深くおじぎをした。


 顔パスだった。


 ゾルゲはとても信頼されているようだった。


 彼は国王の養子として、皇太子ゲルマン2世となっていた。



 

 王宮の中の謁見の間だった。


 ゾルゲは2人を案内して、赤絨毯の上を国王の前まで歩いた。


「陛下。不肖ふしょうゾルゲ、本日は国賓を御案内致しました。聖女カタリナとその守護騎士神宮悟じんぐうさとる様です」


 奏上の後、驚くべきことがおきた。

  

 ゲルマン国王が直ぐに玉座をはずして、聖女カタリナの方に進み、抱きしめた。


「聖女カタリナ殿。とても辛くかわいそうな思いをさせたな!! もう大丈夫かな。隣国にいたのに私は何もできなかった!! 」


 心の底からの言葉のようだった。


 ゾルゲが言った。


「国王陛下。陛下のお優しい心は尊いのですが、ぶしつけでございますよ」


 それを聞くと、ゲルマン国王は真っ赤な体裁悪そうな顔をして玉座に戻った。


「聖女カタリナ殿。失礼をお詫びします。ただ、あなたの気持ちに共感してしまい、いてもたってもいられなかった。そうか。もう大丈夫そうだな」


 国王はちらっと神宮悟を見て、心の底からの笑顔になった。


「実はな。聖女カタリナ殿と私は親戚。私の母親は、聖女殿のおばあさんなんじゃ。皇帝マクミランはおろかだな。このような素敵な娘にあんな仕打ちをするとは」


「お話の途中ですが、皇帝陛下。本日はこのゾルゲ、ゲルマン2世としてお許しいただき事がございます」


「ほう。私の息子がそんなに真剣な顔をして。なんだ、遠慮せずに申すが良い」


「ありがとうございます。我が曾祖父、剣聖シャーの見立てですと、今、この世界最強の騎士は聖女の守護騎士神宮悟殿、次が私ゾルゲでございます」


「知っているぞ。時々、隣国の国王であるシャー殿は、私に会いに来るでな。その時にいつも話題になる。自分の曾孫よりも評価が高いとは、強いのだな!! 」


「えっ。シャー様がそのように―― 私のことをそんなに評価していただいているとは、身に余る光栄でございます」


 その後、ゾルゲは国王に奏上することをためらっているようだった。


「‥‥‥‥ 」


「ゾルゲ。我が息子よ。大丈夫、申すが良い」


「はい。ありがとうございます。私はこの聖女の守護騎士神宮悟じんぐうさとると試合がしたいのです。真剣勝負。場合によっては生死を分けるかも」


 それを聞くと、国王の顔はとても真剣になりゾルゲを見つめた。


「理由は何か? 」


「自分が最強になりたいという功名心は少しもありません。ある事情があり、詳しくは申せませんが。未来のためと」


 ゲルマン国王はとても聡明だった。


「未来のためとは? 」


 ほんのほんの一瞬だった。


 ゾルゲは、聖女カタリナの方に視線を向けた。


 ゲルマン国王はとても聡明だった。


(確かシャー殿が言っていた。純粋な強さは、守護騎士が最強。次がゾルゲ。3位が魔王リューベ。しかし、魔王が持つ悪の魔力がこの順位を崩す可能性有と‥‥


‥‥そうか。これから必ず戦う守護騎士と魔王との戦いに関係があるのだな。達人どおしの戦いは、たとえ1回の勝負でもお互いの実力を高めるのだな)


 おむむろに、国王は告げた。


「わかった。我が血はつながっていないが、我が息子の言うことには相当な理由がある。真剣勝負をするが良い」


「御了解いただき、ありがとうございました」




 次の日、神宮悟とカタリナが指定された場所に出向くと、暗黒騎士ゾルゲが待っていた。


 その場所には極めて大きな魔法陣が描かれていた。


「守護騎士殿、この魔法陣の中に立てば、試合会場として用意された無限の強度と広さをもつ亜空間に立つことができる」


 さらにゾルゲは続けた。


「その亜空間の中では強力な監視魔法が構築されている。試合内容を監視して、勝敗がはっきりした場合は、我々2人を元の魔法陣の中に転送する」


「わかりました」


 カタリナが聞いた。


「ゾルゲ様。私は亜空間の外にいて、試合の状況を見ることができるのでしょうか」


 明らかに、守護騎士神宮悟を心配しているような表情だった。


 ゾルゲは、ほんの少しだけ微笑んで応えた。


「大丈夫です。現実世界の空に構築された亜空間ですから、聖女カタリナ殿ぐらいの魔力があれば、空を見上げれば、亜空間の中の状況を見ることができます」




「さあ、けいと我との真剣勝負を開始しよう」


 そう言うと、ゾルゲは先に魔法陣の中に入った。


 神宮悟もそれに続いた。



 2人が転送されたのは、夕方ののような光りに照らされている亜空間だった。


 少し距離をとって2人は構えた。


 聖女カタリナの守護騎士神宮悟じんぐうさとるは聖剣護国を抜いた。


「ゾルゲさん。何も考えません。あなたを信じ全力で行きますよ。聖女の守護騎士、そして地球という世界の最終守護者の名に恥じることのないように」


「ありがとう。我の一生の中でも今日のような時間は2度と訪れまい。たくさんの責任を背負う者よ、我の攻撃を見事跳ね返して見せてくれ」


 暗黒騎士ゾルゲは剣を抜いた。


 それは、月の光のように輝いていた。


 暗黒空間の外でその状況を見ていたカタリナは驚いた。


「あれは、あの剣の力は、私のもつ力と全く同じ!!!! なぜ!!!! 」


 その時だった。


 カタリナはその輝きの中に人の顔が浮かぶのを見た。


 夜の深い闇のように美しい黒髪に、月のように輝く灰色の瞳。 


「あれは私???? 」


 やがて、その女性がカタリナに話しかけた。


「はるかな時間を超え、やっとお会いできました。とても辛く悲しい思いを超えてきた私の数代後の娘よ。カタリナの名を継ぐ娘。あなたの未来を守るためです‥‥


「‥‥試合をよく見て、あなたの大切な守護騎士が魔王に負けて、命を落す可能性を完全に消滅させます」















 







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