第30話 最高の味方登場!!

 暗黒騎士ゾルゲは剣を振った。


 ただ剣を振っただけだった。

 しかし、その剣は数千年前の聖女の強力な魔力をやどしていた。


 逆に

 

 その瞬間――


 相対していた神宮悟じんぐうさとるは違和感を感じた。


 ゾルゲの姿が動いていないのだ。


「動いていない。でも、確かに剣を振っているはず―― 」


 悟は全身の感覚を研ぎ澄ました。


 彼には経験があった。


 かって、精神体となって宇宙空間の中で小惑星帯を粉砕する訓練をした。


 目で見るのではなく、超感覚で感じることが必要だった。


 やがて


(来る)


 消滅していたゾルゲの剣が現実化された。


 わずか切っ先が現実化された瞬間、それを振り払うように悟は剣を振った。


 悟の剣は最速・最大の力を秘めた剣だった。


 それは、ゾルゲに対しても最大のカウンターになって届いた。


 相手の刃が自分に届いた経験がゾルゲにはなかった。


 悟が振った聖剣護国は、ゾルゲの甲冑を深くえぐり彼の体にも深い傷を負わせた。


 その瞬間、2人の体は亜空間から転移して、現実世界に戻った。


 そして、魔法陣の中に実体化した。


 すぐに体にケガを負っているゾルゲはその場に倒れた。


神宮悟じんぐうさとるが叫んだ。


「カタリナさん。すぐにゾルゲさんに治癒魔法を!!!! 」


 カタリナは急いで倒れているゾルゲに近づき、全力で治癒魔法をかけた。


 やがて、聖女が行う全力の治癒魔法はゾルゲの体に出来た傷を完全に治した。




「聖女殿、ありがとう」


 意識を取り戻したゾルゲは、カタリナにお礼を言うとともに立ち上がった。


 神宮悟がゾルゲに言った。


「ゾルゲさん。不思議な剣でした。消滅し相手の近距離で現実化される剣。初見でしたが対応できました」


「剣士としてのけいの力は驚くべきものだな。やはり世界最強の剣士だ。これで、万が一にでも魔王リューベ様に負けることはないだろう」


「そうだったのですか。魔王リューベは消滅し相手の近距離で現実化される剣を使うのですね。もう初見ではなくなりましたから、完璧に対応できます」


「はははは。万が一と言ったが、たとえ魔王様の剣が初見であっても、けいが負ける確率はもっと低かったんだ」


「もっと低い?? ですか‥‥ 」


「そうだ。我が曾祖父、剣聖シャーの心眼によると1億分の1だそうだ」


「そんなに低かったのですか」


「それくらいの確率であっても曾祖父には心配だったのだろう。なにせ、相手が魔王リューベ様だ。魔王には神に抗うことのできる能力がある‥‥


「‥‥ つまり、簡単に言うと、確率を無視できる能力があるということだ。神の力を無視できる力。たぶん、曾祖父はそのことを心配したと思う」


「だから、私に魔王の剣を事前に見せて実際の戦いの際に初見ではないようにして、私が負ける確率を極限まで0に近づけようと!! ありがとうございました」


「いやいや、これは我が曾祖父、剣聖シャーの発案だ。我も全く同じ気持ちだったのだがな」


 神宮悟じんぐうさとると暗黒騎士ゾルゲの会話をカタリナは聞いていた。


 そして、彼女だけは別のことを考えていた。


(もう1人、はるかなる昔から、私のことを心配してくれた方がいたのですね。何代か前のおばあさまありがとうございました。私の愛する人の命は守られます)


 カタリナが暗黒騎士ゾルゲに聞いた。


「ゾルゲ様。私達がこのゲルト王国を通過することをお許しいただきますか? 」


「もちろんだ。聖女カタリナ殿、早くあなたのロメル帝国に戻られた方がよいです。マクミラン皇帝はもはや、魔女ローザ、魔王リューベ様の言いなりです」


「言いなりですか? 」


「そうです。苦しんでいるのは多くの国民。マクミラン皇帝は、人間の何倍もの力をもつ魔族の戦士を魔界から供給してもらうかわりに、‥‥


‥‥帝国内に身分制度を作った。それで、魔族の身分は人間のはるか上位に位置され、人間は奴隷として扱われている」


「皇帝陛下は国民を奴隷に落したのですか」


「そうだ。朝から晩まで働かされ、ほんのわずかな配給制の食糧しか与えられない。さらに、働くことのできなくなった人々は密かに殺害されているという噂もある」


「わかりました。国民を救わなければなりません。すぐにロメル帝国に向います」



 数時間後、

 

 聖女カタリナと守護騎士神宮悟じんぐうさとるは街道を歩いていた。


 いよいよ、もうわずかでロメル帝国の領土に入る場所だった。


 街道沿いを流れる河の河幅も、上流に近づいたことで、狭まっているようだった。


「カタリナさん。街道沿いを歩いてロメル帝国に入って良いのでしょうか。たぶん、私達が来ることはマクミラン皇帝や黒魔女ローザに知られていると思います」


「攻撃されたら反撃するだけです。私はもう、何も恐れません。だって、私には世界最強の守護騎士悟さんがいるんですもの。10万の魔族が襲ってきても大丈夫」


「10万の魔族ですか‥‥‥‥ 」


「ふふふふ。悟るさんはとても謙虚。たぶん心の奥底では10万の魔族なんてチョロいと思っていらっしゃると思いますが。すぐには物事を判断しないのですね」


「えっ!! 改めてカタリナさんに言われて見ると、自分のことがよくわかります。それではあえて聞きますね。黒魔女ローザのことは? 」


「‥‥‥‥ 実は恐いのです。両親を殺された瞬間の記憶がフラッシュバックしてしまい、たぶん、戦いの場で自分の力の10分の1も出せないような気がします」


「そうですか。それは大きな問題ですね―― 」


「あの顔を直接見ると、ただ震えてしまうかも‥‥‥‥ 」


 その時だった。


 歩いていたカタリナは後ろから誰かに肩を叩かれた。




「カタリナ大丈夫よ!! 」


 驚いて後ろを見たカタリナはとても驚いた。


「えっ、えっ」


 自分がよく知っている懐かしい顔がそこにあった。


 絶望の中にあった彼女を優しく包み込み、そして力づけてくれた人。


 その顔を見るだけで、カタリナの心は最高に強化された。


「月夜見!! なんで‥‥ 」


「ねえさん!! なんで‥‥ 」


「2人とも、しばらく見ないうちに反応が似すぎ!! 夫婦みたいよ!! 」


 3人は笑いながら抱き合った。


 月夜見が説明した。

 カタリナの方を真剣に見ていた。


「あなた。今、不安にさいなまれているでしょ。そして、私と地球で過ごした時間を何度も想い出して、心を落ち着かせているでしょ」


「はい、無意識ですが、月夜見と過ごした時間は私の宝物です」


「あなたはもう、最高の聖女。はるかなる時間・空間・次元を超えて自分の力を発揮できるのよ。あなたの気持ちは、紫の尊いオーラになって全てを超越できるは」


「私のオーラですか」


「そうよ。だから私は決心したの。あなたのオーラをこの手でつかんだの。そして気持ちを込めました。あなたのいる場所に転移するようにと―― 」


「――すると、目の前に自信を無くしてとぼとぼ歩いている娘さんがいました。私はどうしても、大好きなその娘さんの力になりたいのよ」


 




 




 

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