第26話 旦那様も御承知おきください
カタリナと
「悟さん。ここまで来るとドキドキしてきました。ここは故郷の近く、もう私の国、ロメル帝国の隣国。幼い頃には数回、来たことがありました」
「カタリナさん。ここはどういう国なのでしょうか」
「人々は勤勉で質実剛健。そして、さまざまな物作りがさかんです。何よりも、うわべよりも中身を大切にします。」
「今は魔界最強の暗黒騎士ゾルゲさんが
「そうでしたね。月見神社で巫女修業をしていた時、急に現れて、悟さんは手加減をされたと言っていましたね」
「その時にはよく理解できなかったのですが、今はわかります。武人として正々堂々とした戦いを望まれる人。さすがに剣聖シャーのひ孫ですね」
「確かシャー様が悟さんの勝利を予言されていましたが」
「ほんとうに勝てるのでしょうか。全く自信がありません。守るべき聖女カタリナさんの前で不謹慎なことを言いますが、私はいつも自信がありません」
「ふふふふ そこが良い所なのですよ。私が大好きな所でもあります。逆にあまり自信過剰な方が私の騎士だったら息が詰まりました」
「そう言われるとほんとうにうれしいです。でも、なぜ、自信がない所を大好きなのですか? 」
「私と一緒なのです。私も自分にいつも自信がありません。魔力が発現したのがとても遅かったからなのでしょう。でも皆さんのおかげで、ここまで来れました‥‥
‥‥あなたは、他の人のことを思いやることのできる人です。それは、自分に自信がな謙虚な人だからでしょう。どんなに強くなっても、いばらない方です」
「‥‥‥‥ そんなに高評価だととてもうれしいです。ありがとうございます。さあ、ゲルト王国の王都に着きそうですよ」
ゲルト王国の王都は、他の国の王都と異なり城壁に囲まれていなかった。
そして堀もなかった。
密集した建物が始まっていただけだった。
「不用心な街なのでしょうか」
「いいえ。最高に用心しています。王都の最も外周の建物群は、最高に強い家臣達の屋敷なのです。今は魔界の暗黒騎士ゾルゲが統治していますが‥‥
‥‥前の国王は思慮深く、自分の家臣団との間には最高の信頼関係が成り立っていたはずでした。でもゾルゲにはかなわなかったのですね」
カタリナと
すると、行き交う人々の中にいた老婆が急に立ち止まった。
一方、カタリナも同様に立ち止まった。
「お嬢様!!!! 」
「サーシャ!!!! 」
2人は近寄り固く抱き合った。
「お知り合いですか? 」
「はい。知り合いというよりも、私の家族です。私の家・マルク侯爵家に長く仕えてくださったメイド頭のサーシャです。幼い私に読み書きを教えていただきました」
「カタリナ様、生きていらっしゃったのですね。ほんとうにうれしい。よかったです。あの事件の後、私達使用人は侯爵城から直ちに退去するよう命じられました」
サーシャの顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
「とても悲しい結末の後、お嬢様が王城の謁見の間から不思議な消え方をしたことは秘密事項として口止めされたのですが、広く噂になりました」
「サーシャには説明しなくてはいけませんね。たぶん、神様が助けてくれたのでしょう。私は消えた後、とてもすばらしい世界・すばらしい方々の中に転移しました」
「よくわかります。お嬢様は、悲しい御記憶を十分に克服されたようですね。しかも、お顔が安らぎと幸せに満ちあふれています。理由はわかるような気がしますが」
サーシャはそう言うと泣き顔を笑い顔にして神宮悟の方を見た。
急に見られた悟は黙って
「失礼ですが。お嬢様。この方は」
「私が転移した世界で知り合った
「そして未来は、お嬢様の
「‥‥‥‥ 」
「‥‥‥‥ 」
「あれ、申し訳ありませんでした。年寄りが、未来のことを勝手に推測してしまいました」
「ところで、サーシャ、お聞きします。ゲルト王国は今、魔界の暗黒騎士ゾルゲに占領されているのですね? 」
「占領ですか。だいぶ違います。ゾルゲ様は占領していません。むしろ、私達人間とよく対話されて、御自身では『ここに留まらせていただく』と言われました」
「国王はどうされているのですか? 」
「国王ゲルマン様には跡継ぎがいらっしゃいませんでした。それで、ゾルゲ様とよく対話された後、すっかり、ゾルゲ様を好きになり『養子にしたい』と」
「そうすると―― 」
「はい。お察しのとおりです。ゾルゲ様はゲルマン様の養子になられることを快くご承知され、今では、別名ゲルマン2世と名乗られています」
「そうなのですか。人間と魔族の高い垣根を越えて、そこまでの関係になるとは、暗黒騎士ゾルゲは相当の立派な人物なのですね。悟さんはどう想われますか」
「やはりな。という気持ちです。『彼に比べて、生まれてからの時間がとても短く剣を磨く時間も少なかったから、対等な戦いではない』と気にする武人です」
「これから戦うであろう敵にはとても思えませんね。さすがに、あの剣聖、シャー国王のひ孫ですね」
カタリナはサーシャに向かって一礼した。
「サーシャありがとう。有意義な情報をいろいろ得ることができました。私はこれからロメル帝国に戻り、自分のなすべきことをやるつもりです」
「カタリナ様。復讐ですか? 」
「正直、少し前までは復讐のことしか考えていませんでした。しかし今は、少しずつ変って、復讐の気持ちは少し薄らいでいます」
「お嬢様。それでは何を? 」
「私の故郷、ロメル帝国は真っ先に魔王リューベに狙われました。マクミラン皇帝は魔族に踊らされたみじめな方だと想います。ただ、私の故郷は‥‥
‥‥魔界の侵略を直に受けて人々は大変苦しんでいると思います。だから、私の故郷から魔族を全て追い出して、また暖かい幸せな人間の国になるようにしたいです」
「そうなのですか。お嬢様。マクミラン侯爵家の御令嬢、聖女様として御立派なお考えです」
「サーシャ。ロメル帝国で私が目的を達成したということがわかったら、また、あの美しい我が城に帰ってきてくださいね」
「はい。もちろん、喜んで!! それから、旦那様も御承知おきください!! 」
サーシャは
そして彼女はその場を去った。
「旦那様―― ですか!!!! 」
「私はかまいません」
つい、カタリナの本心が出てしまった。
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