第2章 聖女は自分の世界に戻った
第16話 聖女は自分の世界へ戻る決心をした
星空がきれいな夜だった。
海見神社がある山頂で、カタリナは美しい星空をながめていた。
黙り込み何かを決心したかのように厳しい顔をしていた。
彼女が気がつかないうちに、カタリナがその横に立っていた。
「あなたのふるさとへお帰りなさい」
「えっ」
「今、カタリナは必死で考えていたでしょ。だいたいわかる。あなたがこの世界に転移して、もう1年が過ぎたわ」
「正直言って、自分のほんとうの気持ちがわかりません。今のこの世界にずっと残りたい気持ちも強いのです。月夜見や悟さんとお別れするのは悲しいです」
「ありがとう。でも、あなたの世界に帰ったとしても、永遠のお別れ
にはならないわ。また、戻ってくればいいじゃない」
「それに、あなたのそばにずっといたい人もいるのよ」
月夜見はそう言うと、彼女の後ろにいた誰かを無理矢理前に引っ張った。
「悟さん!! 」
月夜見は、悟の胸をたたいてカツを入れた。
「カタリナさんが元いた世界に行って、戻って来るまで僕がおともします。損ではありませんよ。僕はほんの少し強いのですから」
「でも、悟さんは『現世の最終守護者』、この現世にずっといなければいけない存在ですよね‥‥ 」
「もうカタリナさんもこの現世の大切な住人なのですよ。だから、僕が全力で守ったとしても何の問題もありません。ほんとうは、僕はあなただけの騎士になりたい」
「お願い。悟も連れていって、あげて」
「ねえさん。感謝します」
月夜見はニッコリと笑った。
悟もカタリナも、その時の笑顔を永遠に忘れなかった。
月夜見は詠唱を始めた。
「ふるべゆらゆらとふるべ、ひーふーみーよー、4つ鎖、はずれよ」
さらに、緑色の光りは彼全体を包んだ。
やがて、光りは消えた。
すると、神秘的な鎧を着て緑色の剣を持った彼が現れた。
「行ってらっしゃい」
月夜見はカタリナと悟に行った。
「はい」
「はい」
カタリナの灰色の目が輝いた。
そして、すぐに彼女は紫色の聖女のオーラをまとった。
「悟さんも私のオーラで包みますね」
そう言われた悟は紫色の光に包まれた。
カタリナは月夜見を見てニッコリと微笑んだ。
すると、紫色の聖女のオーラは空に噴出され、高い高い空の上で消えた。
もう、そこにカタリナと
「絶対帰ってくるのよ。帰ってこなかったら許さない。それに悟、全力でカタリナを守りなさい。そのために、あなたはさらに過激な修業をしたのでしょう」
月夜見の瞳に涙がにじんだ。
「あなた達がいないと寂しいから‥‥ 」
彼女の上に広がる無限の次元・時間につながる星空は、とても美しかった。
カタリナと
聖女の力に覚醒したカタリナには可能なことだった。
「カタリナさん。ここが元いらっしゃった異世界ですか? 」
「はい。そうです。間違いありません。だけど、ここは私が生まれたロメル帝国ではありません。少なくても、私が転移する時点ではそうでした」
2人は警戒しながら付近を歩き始めた。
「農村地帯ですね。ここら辺は麦畑でしょうか。でも、|実《みのり)は少ないような気がします。あまり、手入れはされてません」
畑に植えられた麦の穂を見ながらカタリナが言った。
2人は歩き始めた。
すると、前方に町が見え始めた。
「カタリナさん。、町が見えます」
やがて、町の門があり、2人はそれをくぐり中に入った。
不思議なことに町の中には人っ子1人歩いていなかった。
「誰も歩いていませんね」
「はい。しかし住民はいます。人のエネルギーは感じます」
町の中に進んでいくと、いきなり、たくさんの人々が騒ぐ多くの声がした。
わっ、は、は、は――
ある大きな建物の中から、たくさんの人々が大騒ぎしている声がした。
とても楽しそうだった。
そして、中が酒場ということがすぐにわかった。
「うっ、くさい!! 」
酒場の中から酒の臭いがぷんぷんしていた。
「僕はもう20歳を過ぎているので、都心の繁華街に行ったことがあるのですが、外までお酒の臭いがこんなに出ているような店はありませんでした」
「入ってみましょうか」
「えっ、大丈夫ですか。カタリナさんは超美人で目立つし、僕はこのような派手派手の甲冑を着ています。何か因縁をつけられてしまうかもしれません」
「転移してからずっと感じるのですが、黒魔術の影響を感じます。何かこの国の人々に術式が使われているような気がします」
2人は酒場の中に入った。
悟が先頭で扉を開け、カタリナが続いた。
予想どおりの反応だった。
ワイワイがやがやと騒いでいた声が一瞬にして消え、視線が2人に集中した。
特に、カタリナには強い視線が集まった。
「ヒュ―― 美人さんだねええ」
「俺もあんな美人、生まれてから見たことがない」
「この席に座ってくれ。俺たちにお酌をしてくれ」
酔っ払いがたくさんの声をかけたが、2人は無視してカウンターに座った。
「悟さん。意外に堂々として慣れているのですね。こういう場合の対処方法を知っていたみたいですね」
「前に古い映画を動画配信で見た時、このような場面がありました。いわゆる西部劇です」
「西部劇、ですか? 」
「はい。その時、見た映画だと、この後、ちょっとしたイベントが起きます。僕が対応しますので御安心を」
2人がそう話していた時、酒場の在る席から2mは超える体の大きな男が離れ、カウンターの2人に近づいて来た。
「ちょっといいかな。かっこよさそうな騎士様。たってのお願いがあるのだけど、横にお座りになられている御姫様を一回だけで良いから貸してくれないかな」
その言い方は大変下品だった。
悟は前に見た映画のヒーローのように返事をした。
「カス!! ちかづくんじゃないよ!! うせろ!! 」
「なんだって、聞こえないな」
悟は突然、椅子から降りて立ち上がった。
「カスは耳も良く聞こえないのか、かわいそうだな」
悟がそう言い終えるか終えないかうちに、大男が腕を振った。
筋骨隆々のハンマーのような腕が振われた。
酒場の中にいたほとんどの客がその結果を確信した。
ところが、
大男のハンマーのような腕は止まった。
悟の腕が一瞬、さえぎった。
そして、ほんの少しだけ反対に押し返したようだった。
結果、大男の腕の関節は反対側に曲がった。
「痛てぇ―― 痛い、痛い―― 」
大男は絶叫した。
「すいません。ほんの少しの力を使い、手加減したのですが。カタリナさん、お願いできますか」
「もちろんです」
彼女も椅子から降り、痛がっている大男にちかづいた。
そして右手を大男に向かってかざした。
大男の腕が紫色の聖女のオーラ-に包まれた。
直ぐに大男の絶叫は止まった。
「聖女様だ‥‥ 」
酒場の中が静まり返った。
そして、全ての客が自分の椅子から降りて、床の上に礼拝した。
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