はじまり/D.Green

青海空羽

About our origins.ーside空

20××,06,××

 1ページ目には、俺らに可愛い可愛い弟ができた日のことを書こう。

 その日、一生懸命な「出てきたぞ〜!」と主張するような泣き声にびっくりしたことは、なんとなく覚えている。だってまだ2歳だったからね。

「おやまぁ、元気な泣き声だこと。」

 驚く俺の横で、ばあちゃんは優しい笑みのまま少し涙ぐんでいた。

「もうあえる?あえるの?」

「もう少ししたら会えるさ。ささ、そらちゃんお部屋で待っていようかね。」

 ばあちゃんはそう言いながら俺の手をひいて、待機室へと向かった。



 初めて触れた時は、俺の手の中で溶けてしまうのではないかと心配になった。

 俺1人では抱っこできなかったから、父さんに抱っこされた俺の腕の上に、布に包まれた赤ちゃんがそっと置かれた。頬や手に触れた感覚も、匂いも、全部柔らかい。初めて感じることばかりで、置いてけぼりをくらいそうになった。何が起こっているのか?と。それでも、俺はお兄ちゃんになったんだ、この子のお兄ちゃんなんだ、という興奮はそれを超える大きさだった。



「ねぇ空、聞いて。この子のお名前、決めたのよ。」

 そう言うと母さんは、花が散りばめられた便箋を渡してきた。

蒼 あお

と書かれていた。

あおよ。」

「あ、お」

「そう、蒼。可愛い名前じゃない?」

「あお、かわいいね。」

 かわいい、が何かはっきりわからなかったと思うが、同意を求められたからおうむ返しをしていた。今なら、どれだけ可愛いか、よくわかる。

「ここに来てみて。」

 ベッドにいる母さんの横に座った。

「ここから、綺麗にお空が見えるの。すごく素敵な青色でしょ?それに、目の前に大きな木があるから、木漏れ日も入ってきてすごく綺麗なのよ。」

 ちょうど木の向こう側に太陽があって、葉っぱから透けて光が見える。すごくキラキラして見える、綺麗だ。

「それで、蒼って名前にしたの。どう?素敵でしょ。」

「うん!すごくすてき!」

「ありがとう空。これからいっぱい遊んであげてね。」

「うん!いっぱいあそぶ!」



 一部始終の記録が、じいちゃんがまわしていたビデオに残っていた。それを見ながらようやく、うっすら思い出せるかな、という程度しか覚えていない。それでも、嬉しそうに蒼の名前を何度も口にしては飛び回っている俺の様子やら、それを見て笑っている母さんや父さんらの幸せそうな様子やらから、どれだけその瞬間が良い空間だったかがわかる。

 


 これはどんな日記かは、続くかもわからないから詳細には言いにくいけど、多分俺らの成長日記みたいなもんだ。せっかく始めるんだから、こういうのは、原点から書かないとと思って、まずは蒼のことから書いた。

 


 まあ今日はこんなところかな。

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