第3話 side B

最後の夏になるだろうとは聞いていた。だから、いろんなことを放り出し、親とも喧嘩別れみたいな形でこの海辺の町に戻ってきたのだ。

わたしの子供時代はここにあって、ここにしかないと言ってもいいくらい。

今更認めるのもなんだか悔しいのだけど、両親にとってわたしは、邪魔な存在だった。すぐ熱を出し、すぐ仕事の邪魔をする存在。彼らは人並みの人生を送るためにわたしを必要としたけど、でも現実問題わたしは彼らにとって障害でしかなかった。幼心に何度もそれを感じた。

「これ以上休めない」「これ以上困らせないで」と何度父と母が困惑する表情を見たことか。だから、生まれてきてごめんねってずっと思ってたし、家にも家族の中でも居場所がないなって思ってた。


でも、そういう気持ちを取り払ってくれるのが祖母の家だった。祖母の家は遠く離れた、飛行機の距離の海辺の田舎町で、ここではわたしはこどもでいられた。祖母の前ではわがままを言えた。叱られもしたけど、ゆったりした時間がそこにはあった。小学も中学も夏休みは丸々祖母と過ごした。祖母は別に派手な愛情表現をするタイプでもなかったしけして猫可愛がりしてくれたわけでもないのだけど、ただ、わたしを守ろうとしてくれていたのは感じた。楽しいこども時代を過ごしなさいと何度も言われた。それがあなたを守ってくれるからねって。

だから祖母と鯵を釣り、縁日に行き、花火を見て、スイカを食べて、トマトをもぎり、セミを捕まえた。わたしの夏はすべて祖母と共にあった。


その日、祖母の吐瀉物がわたしの服にかかってしまい、介護の山村さんが気を使って言ってくれた。

「夏だしすぐ洗って乾かせばいいじゃない。一時間もあれば乾くからそれまでこれ着ておいたら」

そしてわたしはホスピスのワンピースを借りた。


祖母はもう今年の夏が越せないというので、わたしはどうしても祖母に会ってお別れをしたかったのだ。彼と会ったのは、そんな夏の終わりだった。

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