この世界のバランスを保つのは難しい!
虎革龍之介
第1話 始まりと出会い(24,07,10仮改定済)
「この子だけ、この子だけはっ」
卵を高いところから落としたような、気持ち悪い音が里中に鳴り響く。
ここは寒冷地域のはずなのに、すごく暑く感じる。
視界いっぱいに広がった紅色。
里に響きわたる鈍い音と断末魔。
野外だというのに辺りは不快な匂いが充満していて鼻が腐りそうだった。
僕たちが何をした?人間に何をした?
絶え間なく聞こえてくる叫び声に呆然と耳を傾けて座り尽くしていると男が近づいてきた。
何故だろう。
僕は、この先も希望に満ち溢れた生活も送れるのだと微塵も疑っていなかった。
昨日まで平和で笑い声が絶えなかった里は、今は人々の怒涛と泣き叫ぶ声で埋め尽くされている。
呆然と座り込んでいたら、1人の人間が近づいてきた。
その手には同胞の返り血で柄まで真っ赤に染まった剣が握られている。
ゆっくりと、だけれどまっすぐに向かってきている。
今日死ぬんだ……。
まだ子供の自分にも察せられた。
「ソード、お前だけは生きなさいっ。我々ザングス族全員の死を無駄にすることだけは絶対に許さん!」
父さんが僕の前に立ち、男の行く手を阻む。
僕は死を覚悟していたというのに、父に助けてもらったのが嬉しかった。
「お前なら、このねじ曲がった世界を正すことができる!!」
「でも、父さっ」
「いいから行けっ!」
「...。」
その瞬間、僕は無言で駆け出した。
後ろで男と父さんが戦っているのが聞こえる。
「あっちに、誰か走っていったぞ!」
「すぐに追いかけろ!いいか、一匹でも取り逃すな!」
「うるせぇ!わかってラァ!ほら行くぞ!」
「おぉぉぉ!」
なんで父さんがっ、みんながっ、里がっ。
意味もわからないままただただ走り続けた。
「おいおい、逃げるなよぉ?」
「ほんとだよ。俺たちはちょぉっと金貸してくれって言ってるだけじゃねえか。」
ガラの悪い2人組に絡まれた。
ちょっと近道しようと路地裏に入っただけだったのにそれが運の尽きだった。
こんな人たちが昼間からいるなんて誰も思わないって…。
一旦は逃れることができたもののこの路地裏は彼らのテリトリーらしく、どんどん暗く狭い道へと追い込まれていく。
「あっ。」
気づいた時には行き止まりに来てしまった。
「行き止まりだなぁ?」
「俺たちちょっと声をかけたら逃げられてすごく傷ついたんだぜ。」
そう言いながらじりじりと距離を詰めてくる。
これは、かなりまずい気がする…。
「た、助けてっ。」
「安心しなさい、少年。お前は大丈夫だ 。」
シュッ。
目の前に僕を囲むようにキラキラと光る綺麗な氷が現れた。
声のしたほうを振り返るとそこには茶色のマントを靡かせながら立っている若い男がいた。
「お兄ちゃん、一体誰?」
「駆け出しのヒーローってとこかな。」
ニヤッと笑って答えた。
と、同時に急に氷が現れて僕を追いかけていた奴らを拘束した。
よかった。これでもう大丈夫だ…。
安心していると後ろから警察が走ってくるのが見える。
「な、いつのまに俺ら捕まって…。ていうかお前誰だよっ?何邪魔してくれてんだぁ?ここは俺らの狩場だったんだぞ?」
「だから駆け出しのヒーローだって言ってるじゃん。」
「あー、あいつこないだヒーローの資格取ったやつじゃないか?」
「ゲッ、ヒーロー資格ってマジかよ、相当頭良くて才能のある奴じゃねぇとなれねぇやつだよな...。」
「あぁ、そうだよ。ていうか、お前警視長の話聞いてなかったのか?」
「あー、やっときた。遅かったなぁ。」
「おつかれさまです。えーとお名前は?」
「ソードです。」
「ソードさんお疲れ様でした。こちらが報酬でございます。」
「うーん、いいや。俺報酬のために働いてるわけじゃないので。」
「受け取って頂かないと困ります。」
そういうと、警官はこそっと言った。
「貰って頂かないと私が上司に叱られるので。」
「そうですか。では、遠慮なく。」
微笑みながらそういうと、ソードという男は茶封筒を持って消えた?のだった。
・
「なんか最近奴らからの攻撃が多いんだよなぁ。」
チャリンと鳴る首飾り、見た目は氷のように透明で中心にはザングスの牙。
これは俺が五歳の頃父さんから受け継いだものだ。なんでも、ザングスの里の主獣になったら必ず継承され息子ができたらまた自分が継承しなければならないようなものらしい。
もらったときはもちろん嬉しかったさ。何ヶ月経っても嬉しさが絶えなかったのを俺はよく覚えている。それなのにあのクソみたいな一日のせいで俺の人生は一変してしまった。
あの日から、ザングス族は俺一人だけ。
「はぁ。」
狭い小屋に響くため息。これからどうしようか。事務所でも構えてみるか?
「こんな状況じゃ無理だな」
苦笑いをする。また旅にでも出てみるかなぁ。まぁ、それもありだな。
「あっ!いいこと思いついた!助手を雇おうか。」
ただ、今助手のを雇えるほどの金もない。
だが、雇う金がないなら人材を育てたらいい。
「時間は、かかるが俺の寿命ならまぁいいだろう。」
あと、30年は自由に体が動くはずだ。問題はない。
そうして俺はある場所へ向かった。そう、孤児院だ。
子供なら育て方次第できっと有能な助手になる。
俺、子育てしたことないんだけど大丈夫かな…。
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