ゴミ扱いされ捨てられた【工作の勇者】は、実は帝国の探し求める最強の【創成の勇者】でした〜迫害されたエルフと共に帝国へ復讐を〜

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 教室で陽キャにイジメられていたらクラスごと異世界に転移した件

「優斗、おはようっ! 今日も遅刻ギリギリじゃん!」


 朝——


 向月高校、2年A組の教室。


 俺が教室のドアを開けると、幼馴染の亜美がやって来た。


 茶色がかかった髪に、大きく澄んだ瞳。


 学年でも1番かわいいと言われる女子だ。


「おはよう……」

「もっと早く来なよー! 昔みたいに、あたしが起こしてあげよっか?」

「いや、いいよ……」


 地味で目立たない高校生、俺こと湊川優斗のはずが、


 この目立ちまくる幼馴染のせいで、教室で余計な注目を浴びてしまう。


「おい。陰キャガワ。幼馴染だからって、宮本さんに迷惑かけるんじゃねえよ」


 いきなりつかかってくるこの男は、笹山康太。


 クラスの中心にいる、陽キャイケメン。


 「陰キャガワ」は、俺のあだ名だ。


 2年に上がった時に、笹山につけられた。


「どうせエロゲでもやってたんだろ? きめえんだよ」

「別に……」


 笹山が俺に絡んでくるのには理由がある。


 それは、亜美が俺と幼馴染だからだ。

 

 笹山は亜美のことが「好き」らしい。

 

 俺みたいな陰キャと亜美が仲良くしているのが、許せないんだそうで……


 (はあ……本当に迷惑な話だ)


「聞いてんのか? コラっ!」


 笹山が俺の襟首を掴んだ。


「聞いてるよ」

「なら、宮本さんに謝れ」

「は? なんでだよ?」

「お前がいつも、宮本さんに迷惑かけてるからだ」


 まったく理解不能だが……


 しかし、こんな状況になっても、クラスメイトたちは見て見ぬフリ。

 

 笹山に逆らえば、何をされるかわからない。


 次は自分が笹山のターゲットにされる……


 「我が身大事」ということみたいで。


「笹山くん、あたしは優斗と幼馴染だから……」

「それがダメなんだよ。クズを甘やかしちゃダメだ」

「優斗はクズじゃないよ。本当はできる子だから」

「はははっ! 何もできるわけねえじゃん。湊川と一緒にいるより俺と——」


 指をさして笑われる俺。


 笹山に絡まれるせいで、他のクラスメイトも俺を避けるにようになった。

 

【宮本さん、どうして湊川なんか庇うんだ?】

【ちょっと宮本さんに好かれてるからって、いい気になりやがって】

【早く消えちまえよ】


 クラスメイトが、俺を罵倒する声が聞こえる。


「そうだよ。宮本さん。陰キャガワなんか忘れてさ、康太と付き合いなよ」


 (こっちもまた来たか……)


 俺たちの間に入ってきたのは、桜田瑠奈。


 クラスの陽キャギャルで、女子グループの中心。


 笹山の友達で、クラスカースト最上位の奴。


 笹山と一緒になって、俺をバカにしてくる。


「……あたしと優斗はただの幼馴染で、付き合っているとかじゃないから」

「だったら、康太でいいじゃん。カッコいいし面白い奴だよ。陰キャガワと一緒にいたら、宮本さんの【価値が下がる】し」


 噂だと……桜田は笹山が「好き」らしい。


 だけど、笹山に気持ちを伝えていないそう。


 まあとにかく、俺には関係ないから他所でやってほしいところだが——


「てめえコラ。逃げようとすんな」

「逃げるも何も、俺に関係ないし……」

「宮本さんに、謝罪しろ。ついでに俺にも」

「なんでだよ……?」 

「てめえを見てるとイラつくから。だから俺に謝れ。土下座しろ。クソが」


 相変わらず、よくわからん因縁をつけてくる。


 こうなると面倒だな……


「さ、笹山くん、やめなよ。湊川くん困ってるみたいだから……」


 俺を助け出そうとしてくれたのは、有栖川愛理。


 クラスの委員長で、メガネかけた真面目な女子。


「委員長は優しいな。俺はこの【ダメ人間】を教育してるんだよ。湊川のためだ」

「でも……」


 始業のチャイムが鳴る。


「ほら、みんな席につけー!」


 郷田先生が教室に入ってくる。


「お。笹山。また湊川をイジメてたのか?」

「先生。人聞き悪いっすよ! 遊んでただけっす!」

「はははっ! 笹山は元気があっていいな。湊川も笹山を見習えよー!」


 剛田武彦——2年A組の担任教師で、担当教科は体育。


 体育教師らしく、大柄な男だ。


 実は剛田先生は、俺が笹山にイジメられてることを知ってる。


 だが、笹山を止めるどころか、一緒になってイジメを煽ってくる。


 剛田先生も、クラスの中心の笹山が怖いらしい。


「さあホームルーム始めるぞ――」


 と、剛田先生が言った時だった。


「な、なんだこれ……?」


 教室の床から光が――


 床にまるで魔法陣のような模様が現れて。


 そのまま俺たちは、眩しい光に包まれた……


 ★


「ここはどこだ……?」


 俺たちはふかふかの絨毯の上に立っている。


 ファンタジーゲームの城のような、豪華な部屋。


「はっはっは! 【異界の勇者】様たち、ようこそ!」


 頭に王冠、紅いマントを羽織った男が俺たちに拍手する。


「異界の勇者様! 歓迎いたしますっ!」


 周囲にいたファンタジーのコスプレ(?)をした人たちが、王様みたいなオッサンの後に続けて、俺たちに謎の拍手。


「あの……あなたたちはいったい?」


 剛田先生がオッサンたちに尋ねるが、


「皇帝陛下。はやり異界の勇者たちは混乱しているようです。ここは私にお任せください」


 シスターみたいな恰好をした女性が、俺たちの前に立つ。


「私は聖女ミラベルと言います。異界の勇者様を、【アルトリア】に召喚したのは私です……」


 金髪でブルーの瞳の、きれいな女性だ。


 俺たちにすごく優しく話かける。


「皆様は、選ばれた勇者なのです。私からいろいろ教えて差し上げましょう――」


 聖女(?)のミラベルさんが言うには……


 俺たちは、日本から異世界【アルトリア】へクラスごと召喚された。


 アルトリアには、人族、魔族、亜人族の三つの種族がいる。


 【バルトオーク大陸】と呼ばれる三角形の大陸に、三つの種族は住んでいる。大陸の東側に人族の国が、西側に魔族の国が、北側に亜人族の国があるらしい。


 そして今、人族は魔族と戦争中だそうで……


 さっきのヒゲのオッサンは、【マクタロード帝国】の皇帝で、魔族と戦う人族の指導者だそう。


 魔族は人族よりもあらゆる面で強い。普通に戦えば、人族は魔族に勝てない。


「魔族は非常に強大な力を持っています。そこで、異界の勇者様の力が必要なのです」


 異界の勇者――異界、つまりアルトリア側から見た異世界【日本】から召喚した俺たちのこと……らしい。


 マクタロード帝国が、俺たち【異界の勇者】を召喚した目的は――


「皆様には、人族を脅かす魔族の王【魔王ゾルターク】を討伐してほしいのです。これは、異界の勇者様の、崇高な使命です……」

 

 魔王を倒すために、俺たちは召喚された——


「しかし、いきなり戦えと言われても……」


 剛田先生が、聖女に言うが、


「大丈夫です。勇者様たちには、【特別な力】があります」

 



 


 


 

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