器用貧乏
いつか、いつかと考えてはいた。
自身の力を隠さず、堂々と戦うこと。
だが、結局のところそんなことには今まで一回もなかった。
俺一人では、そんなことをする勇気を持つことができなかった。
指輪という、強い仲間がいなければ、こんなことは一生なかったのかもしれない。
やはり、俺は弱いのだろう。
「結局お前もちょこまかと逃げているだけか?」
「とは言ったって、お前のそのタイトルはどうしてもこうなるだろ!」
そんなことを言われたって、神崎が持つタイトルを前にしては、逃げることしかできないだろ。
なんせ、あの指輪ですら最初は逃げ続けていたんだ。そして、最後には攻撃を喰らっている。
「まぁ、もう少し逃げ続けさせてくれよ」
「はっ、時間稼ぎか?お前が一体何をするって言うんだよ!」
「うおっ——」
ゆっくり話すこともできないな。
一応作戦はあるし、その通りに事は運べているんだけど、この嵐の中のような攻撃を避けながらはさすがにきつい。もう少し時間が必要だな。
「クソッタレが!お前はそんなんだから器用貧乏のままなんだよ。逃げているだけで、何もしない。やられてばっかで、やり返しもしない。そんなバカだから、俺に勝つことなんて一生出来ねぇよ!」
「——っと、ぶねぇ」
神崎は怒声を上げながら、なりふり構わず俺へと攻撃を仕掛ける。
その後も、俺に対して四の五の言い続け、変わらず無闇矢鱈に正確な攻撃が俺を追い続けた。
攻撃を避ける際は、できる限り小さく体を捻るように躱し、体力を温存できるようにしつつ、俺は試験場を行ったり来たり走り回っていた。
別に走り回ることをしなくても攻撃を避けることはできるが、それでも俺は止まらずにいる。
そして、時は来た。
「神崎!」
「あ?」
俺は急に止まると、神崎へと声を掛ける。
「待たせて悪いな。ようやくお前と戦える準備ができた」
「準備だ?はっ、何がしてぇのかしらねぇが、お前のやることなんざたかが知れてる」
「...そうだな。俺みたいな器用貧乏が何かしてもお前には届かないだろうな」
「それが分かってんなら——」
「——だが、それでも俺は諦めない。俺の力がお前に届くまで何度でもやってやる」
「...言うじゃねぇか。なら見してもらおうか。お前の力を!」
俺は神崎を前にして目を閉じる。
集中しろ。余計なことは考えるな。
ただ、あいつに勝つためだけを考える。
「十分だ。十分でお前を倒しきってみせる」
「おい、お前それ本気で言ってんのか?だとしたら相当俺をバカにしてるぞ」
「まぁまぁ、まずはやってみないと。じゃなきゃ、Sランクを倒すことなんてできないぞ」
「口だけ達者な野郎が。後悔しても遅いからな!」
神崎はそう言うと、俺目掛けて一直線に走り、剣を振り翳す。
そして、剣が俺に当たる直前。その刹那に俺は考える。
俺にだって、負けられない、勝たねばならない理由がある。
ここで今までの自分と向き合い、新たな自分に生まれ変わるため。仲間の仇、勝利を手にするため。
だから、俺はここで躓く訳にはいかない!
「<
カキンッ!
「なに!?」
神崎の振るった剣が弾かれる。
「言ってたよな。いくら強いタイトルを一つ持っていても数には勝てないって。なら、それは俺にだってできる。...耐えてみせろよ?」
俺の背後にずらりと並ぶ光の円。その中心から千差万別の武器たちが出る。
「<
「これは、一体...」
神崎が唖然とした状態で立ち尽くす。
さっきまで大声で喋っていた神崎が黙ることで、周囲の物音や話声がちらちらと聞こえてきた。
その中には、指輪らしき声もあり。
「こんなの、私よりも遥か上。本当の世界最強」
「...世界最強?いや、俺はただの器用貧乏だ」
俺は別に指輪に向かって話す訳でもなく、ただ一人そう自虐する。
だって別にこのタイトルは最強でもなんでもないしな。
「さぁ、はじめるぞ」
♢
形勢逆転。
さきほどまで逃げ回っていた人物が俺から神崎へと完全に切り替わった。
「クソッ!」
苛立ちを孕んだ声が投げ飛ばされる。
「...」
俺はそのボールを返すことなく、冷徹に、身勝手にそのキャッチボールを捨て去る。
会話で気を紛らわされたりしたら面倒だしな。
何の面白みもない、これは蹂躙、完膚なきまでの勝利を手に入れる。
「<三十三>。<四十七>。<六十一>」
俺は数字を発するだけ。それだけで神崎に、様々な攻撃が押し寄せられた。
縦横無尽に飛来する剣。四方八方から飛ばされる銃弾。頭上から落とされる巨大な岩。吹き荒れる鋭い風。
まさに地獄絵図だ。無数に押し寄せる攻撃。
だが、それでも神崎は耐え続けている。
「さすがにAランクのタイトルを六つ持っているしな」
神崎は交互にタイトルを使い、攻撃をスレスレで避けていく。
黒剣で攻撃を斬り。
黒煙で攻撃を弾き。
炎の渦で攻撃を飲み込み、消し炭にする。
攻撃を静止させ、攻撃する物体にカウンターを喰らわせる。
そして、これらを止めずに次から次へとコンボを繋げることで、神崎の攻撃力と速度がぐんぐん上がる。
まったく、見事なものだ。
俺も多くのタイトルを持つため、その技術がどれほどに凄いことなのか。それを理解している。
俺はタイトルを使用するのに、別のタイトルを用いることでその技術を簡略化しているのだが、神崎の場合は完全に己でそれを制御している。
「これは、早めにケリをつけた方がいいかな」
特に六つ目のタイトル。
あれのせいで元々スペックの高い神崎が、度が過ぎるほどに強くなり続ける。
指輪が諦める訳だ。
指輪がちゃんと本気で戦っていれば負けることはなさそうだが、今回は先に攻撃を貰ってしまっていた。
「俺も、同じようならないように気を付けねばな」
「一人で喋ってて楽しいか!」
気づくと、あれだけ放った攻撃は当たるどころか、かすりもしなくなっていた。
そして、神崎は少しずつ俺の方へと近づいてきていた。
「バケモノかよ。<十一>。<十二>。<七十七>」
俺は更にタイトルを使用する。
すると、両手に赤と青の剣が現れる。更に、俺の装いが変わり、先ほどまで学校指定のジャージだったのが、真っ黒なシャツにスラックスとロングコートといったものに。
「いいだろ。この服、俺がデザインしたんだぜ。かっこよくね?」
「こんな暑いのによくそんなカッコできるな。暑さでバカになっちまったか!?」
「残念。この服は温度調節機能付きだ」
俺は神崎とは趣味が合わないらしい。
「なら、今から魅せてやるよ」
俺は二刀を構えると、神崎へと直接攻撃に出る。
「クッ」
先ほどまでの攻撃は遠距離。しかも自動攻撃にしていたため、かなり単調な攻撃だっただろう。
しかし、今度は俺の意志で。自身の手で千変万化なる剣戟を浴びせる。
だが、それでも神崎は退かない。それどころか、より俺に着いてくるようになる。
防御するのもコンボに含まれるのか。自身にダメージは入らないとそうなるのか?
そんなことを考えながら、怒涛の乱舞を放つ。そして、それに必死に食らいついてくる神崎。
「...すげぇな」
剣を交えることで、それをより強く感じた。
俺の場合はタイトルでこの力を引き出しているのだが、単純な攻め合いでこれとは。
「どうやら、魅せられているのは俺の方か?」
「いい加減!その上から目線を止めやがれっ!」
神崎が伸ばした突きが俺の頬を掠る。
「ちっ。さすがにだな。結局先に攻撃を貰っちまった」
「...お前」
俺が攻撃の手を止めると、神崎がポツリと問う。
「まだ全然本気じゃねぇだろ」
「...」
ここまで俺がやってみせた戦いは、他のタイトル保持者にはほぼ無理なやり方だ。
それを初めて見て、体験したのにも関わらず、この状況でまだ上があると知覚した。
これは、想定外だ。まさか、ここまでの才能があるなんて。
「面白い...」
俺はいつの間にか笑っていた。
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