最強vs最凶
こうなることは分かっていた。
だからこそ、<
もしかしたら、彼のこれから一生での視覚を奪ってしまうかもしれない危険な攻撃だった。
しかし、私の攻撃は神崎に届くことはなかった。その寸前で、私が持つナイフは完全に停止した。
「案外楽しめたぜ。そして、お遊びはここらで終いだ!」
神崎の大剣が私の腹部目掛けて振るわれた。
ガンッ!
「かはっ...」
鈍い音が体に響く。神崎の情けか、峰打ちだったため切り傷にはならなかった。
ただ、逆にこれはこれで死ぬほど痛い。
試験中は致命傷などを避けるために、自身が受けるダメージをある程度肩代わりしてくれるアイテムを支給されるのだが、それを身に着けていてもこれほどの痛みを伴うだなんて。
私はそのまま、体を吹き飛ばされ、試験場に横たわる。
「勝者。神崎 聖司」
試合終了の合図が下された。
♢
第二試合。神崎と柳沢の試合が終わった。
「お疲れさま」
「大変でしたね。大丈夫ですか?」
「...大丈夫だと願いたいわ」
すっかり、満身創痍の状態だな。
「...それより、ごめんなさいね。彼に勝つことはできなかったわ」
「そんなことを気にするなよ。俺なんてもっと酷い有様だったぜ」
「...それもそうかしらね」
「そこはちょいと否定してくれないか?」
牧村がしょんぼりとしてしまった。自分から言い始めたことなのに。
「...だけど、あなたの作戦を使わせて貰ったわよ。いかにも脳筋な見た目なのに、心理誘導なんて。以外と頭がいいのね」
「はは、そいつは誉め言葉として受け取っておくよ」
柳沢が牧村に感謝の意を示す。
試合中に指輪に教えてもらったのだが、柳沢が保有するタイトル、<
つまり、彼女がこのタイトルを使用している際は歴史上で有名な策士たちと相手をしていると考えていい。
怖いな...。
そして、今回の戦いで柳沢が使用した策は直前に牧村が行っていた心理誘導。
同じ動きを繰り返し、次もそう来るだろうと考えさせ、相手の隙を突く策。
「柳沢のお陰であの黒い煙のタイトルの力もだいたい把握できたしな」
「...最後の方だけど、神崎があのタイトルを使った時に<
「<黒煙筒>。防御と感知に特化したタイトルか」
それでも、弱点は見つけられた。目元は覆えないこと、防御か感知のどちらかの状態でしかタイトルを発動できないこと。
これだけでも、かなりの情報を得られた。
「それと、神崎くんはまだなにかタイトルを隠しているようですね」
「...うん」
最後、柳沢が突き刺したナイフが神崎に攻撃する直前で完全に停止した。
あれも神崎が有すタイトルの力なのだろう。
「一体いくつのタイトルを持っているのやら」
「...しかも、その全てが恐らくAランクのタイトル」
今までの二試合だけでも、神崎は少なくとも三つのタイトルを使用した。
そのどれもが高ランク、Aランクの水準であろう。
「とはいえ、次は指輪の番だ。余裕だろ?」
「...はい。大丈夫です。絶対勝ちますから」
指輪は一呼吸おき、すでに勝ち誇っているかのような笑みをこちらに向けた。
まだまだ未知数な存在である神崎だが、そんなものはどうとでもなる。ただ、圧倒的な力でねじ伏せる。それが、絶対に勝つ方法だ。
その最たるもの。指輪が持つSランクのタイトルである<全知全能なる者>。
「では、行って参ります」
指輪が試験場へと歩く。
「まぁ、指輪なら大丈夫だよな」
「...そうね。彼女が負けるところなんて考えられないわ」
「...」
俺も牧村と柳沢の意見には賛成だ。
しかし、指輪が勝つにはそれなりの苦労が必要だろう。
神崎のあれは、俺に似たものを感じるから。
♢
試験という言葉は、恐ろしい程の緊張を孕んでいることを知った。
私が初めて化物と相対した時は、恐怖という言葉で身体にのしかかってきた。
しかし、それは次第に場数を踏んでいるうちに慣れてしまった。私のタイトルの前では全てが同じ存在。
「ようやくあんたの出番か」
「...」
神崎くんが私に向かってギラついた目を向ける。
「この日をどれだけ待ち焦がれたことか」
「...どういうことでしょうか」
「そのまんまだよ。俺は今まであんたと勝負したくてな。一体どれだけ我慢したことか。だが、ついにこの時がきた」
「そんなに負けたいのね」
「ほぅ。言うじゃねぇか」
「あなたは確かに強い。だけれど、私に届かないあなたは彼にも届かないわよ」
「ん?彼だ?」
「そう、朝比奈くんに」
「...くく、く。がはは!」
神崎くんは不気味な、それでいて彼らしい強気な笑いを声高らかに発した。
「俺が?あの
「冗談を言ったつもりはないのですが」
「本気で言っているのか?だとしたら勘違いもいいところだ。俺はあいつのようにゴミみたいなタイトルを多く保持しているんじゃない」
もう少しお話をしていたかったが、時間が迫って来たらしい。
「両者準備はいいか?」
試験官がこちらに合図を求める。
「えぇ、大丈夫です」
「おぅ、いつでもいいぜ」
「...それでは、試験を開始する。はじめ!」
ドォン!
短く強い音が響く。そして、その音を出したのは神崎くんではなく、私の攻撃だった。
「どう?そんなに私と戦いたかったんでしょう?」
「くっ...」
試合開始の合図が発せられた瞬間。誤差〇.〇一秒にも満たない間に私は神崎くんへと距離を詰めた。
それはまるで、一つの雷のように。
「なるほど、これが<全知全能なる者>の力。<
バチバチ...
静かに火花を散らす音が、私が握る剣から発せられる。
そして、それは神崎くんの首元へと押し当てられていた。
「やっぱり、言うほどあなたは強くありませんでしたね。これなら、朝比奈くんの方がもっと強いですよ?」
「...何度言わせればいいんだ?俺をあの器用貧乏よりも下だと言うのか?そんなことは断じてないっ!」
「そうですか」
私は、この人を許せない。
彼を、朝比奈くんを器用貧乏だと蔑み、いじめていた集団のひとり。
私を助けてくれた人。私が守りたいと思う人。
そんな人を侮辱したのだ。だから、私は何度考えようとこの人を許すことはできないだろう。
「では...」
自身が持つ剣に<雷>の爆発力を極限まで溜め込む。
「ちょ、ちょっと君!」
試験官が私に静止を求める。しかし、私を止めることはできない。
ここまで溜めた圧力を首元で受けた場合、神崎くんは死んでしまうかもしれない。
そうなったら、色々な面倒事が押し寄せるでしょう。でも、そうなってもいい。
ちら、と後ろを向くと。
「...」
静かに、何事もないかのように彼はこちらを真顔で見つめている。
彼は、こんな私を見て、失望したでしょうね。
それでもいい。あなたが私を見なくなろうとも、私はあなたからこの瞳を動かすことはないから。
「おい...」
「ん?どうかしましたか?」
「一体いつ、俺がこのまま負ける展開になったと思っているんだ?」
「...まさか、ここから逆転が起きるとでも?」
戯言はもういい。
私は、なんの前ぶりもなく神崎くんにとどめを刺そうとした。
カキンッ!
甲高い音と共に、私の手の中にあったはずの物が消えていた。
「さぁ、それでもまだ余裕ぶってられるかな?」
私の剣は遠く弾かれ、逆に神崎くんの大剣が私の首元へと突き付けられていた。
「ずっとこの日を待っていた。Sランクとはいえ、たかだかタイトルを一つ持っているだけ。そんな相手よりも俺が劣っているはずがねぇ。ここまで、努力だけで登って来た。いいぜ、本気でやり合うためだ。教えてやるよ。俺が持つタイトルは全部で六つ。そして、その全てがAランクのタイトルだ」
「——!」
ここまでに見せられたタイトルが三つ。そして、それによって最低でもAランクのタイトルを三つ持っていることは分かっていた。
だが、現実はその予想を超えていた。神崎くんはAランクのタイトルを予想の倍の数を有していた。
「さぁ、いい加減試験を始めようか」
今度こそ、試験を行う二人の間で開始の合図が鳴らされる。
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