第151話 功績と弊害


 王妃様と国王陛下に正式な謁見の間で謁見をする。


 婚約するために王宮に入った時一度だけこういう形で謁見した。今回はレオンと共に、大儀であったという労いの言葉をかけられる。


 私たちへの褒美については話が長くなるからと、別席へ移ることとなった。初めから茶会のような場にしなかったのは、それだけ功績を讃えた結果だろう。


「今回、望んでいた結果だけでなく、想定外の功績をあげてきたことに驚いている」


 うちの国王陛下はマービュリア国で老衰した国王よりも若い。マリウス殿下の父なのだから当たり前だ。どちらかというと新しく即位したレオンの妹の夫と年は近いだろう。


「我々も、あのような結果になるとは思っておりませんでした。勝手をしてしまった事、大変申し訳ありません」


 結果良ければとは言うが、もしも相手がすんなり負けてくれなければ、どうなったかわからない。それこそ、ブルームバレー国が他所の戦争に巻き込まれていた可能性もあった。


 レオンと一緒に頭を下げておく。


「頭を上げよ。まだ、詳細は出ていないが、マービュリア国からは、こちらへ向かっていた海軍船が聖女様を狙っていた可能性があると情報を頂いている。無論、こちらで警護もつけているが、そのような間者が国に入っていた場合、探し出すのに苦労していただろう」


 国が最も大切にする宝は聖女様だ。リリアン様はまだ若い。健康であられれば、少なく見積もっても後二十年以上平和が続く可能性が高い。それを狙うものは一つでも少ない方がいい。


「魔法石も、こちらの望むものを持ち帰ってくれた……立て替えた金額は後でソレイユ家に支払おう」


「その件ですが……」


 レオンが言い淀んだ後、続ける。


「無償で提供して頂きました。また、奴隷として不当に売られた者たちについての捜索もルビアナ国が責任をもって行ってくれるとのことです。こちらへの帰還方法はルビアナ国にある我が国の大使館と連絡を取って決めますが、飛行船の運航ができるようになれば、それを利用してこちらまで連れ帰る事も可能です」


「………冗談かと思っていたが……。それらも事実か」


 陛下が困ったようにため息をついた。


「功績に対してため息などつくものではございません。二人は我々の依頼を十分にこなすためにただ努力をしただけのことでしょう」


 王妃様が諫められるのに陛下が苦笑いを漏らした。


「そうだな。ルビアナ国からも、こちらへ連絡が来ている。正式なものは後日とのことだが、二人について、特にリラに関しては大変に恩があると書かれていた。間違いはないか?」


 どういう連絡網だろうか。


 飛行船や船の連絡手段があるので、何か方法があるのだろう。基本は手紙でやり取りをしている身としては不思議に思いながら首を傾げていると代わりにレオンが答えてくれた。


「リラ殿が、ルビアナ国の困りごとを解決した結果、魔法石と奴隷の解放につながったのは事実です。私も事故に巻き込まれ死にかけたところをリラに助けていただきました。今回、海軍を止めた方法は公式には発表していませんが、それも彼女の魔法によるものです」


「レオン様は、人にばかり功績を譲らなくてもいいのですよ」


 交渉や実務、飛行船など、レオンがいなければ始まらないことも多数あった。実直な仕事は評価されないというのはよくない。


 そして、私のあれらは、結果的によかっただけで、やらかしたともいえるものだ。


「レオンの功績として全てを隠すことはできますが、ルビアナ国が知ればリラに対して不当な評価をしているとみられてしまうでしょう」


 王妃様が厳しい口調で言う。


 続きは、国王陛下が口にした。


「ライラック男爵領の後継者だが、色々と選定は行ったが、特殊な事情によりリラ・ライラックに任せる事も考えている。そして、男爵位ではなく、今回の功績を踏まえ、伯爵位を与えることも検討している」


 その言葉にぽかんとしてしまった。国に戻って少し気が抜けているのも否定はできないが、あまりにも失礼な顔をしていただろう。


「貯水池の管理のため……でしょうか」


 ならば、私がそこに嫁げばいいだけではないだろうか。いや、そもそも女性に伯爵位? 王族が新たに与えられる最大限の爵位だ。


 公爵と侯爵は今の家門数を維持するだけの方針になっている。


「あの領地を与えることに関しては、そうだ。国から支援はしているが、水が足りていない」


 水を溜めるだけならば、それなりの料金で引き受けるのはいい。だが、急に管理と言われては困る。


「陛下は、私にリラ殿との婚約を破棄しろと、そうおっしゃるのですか」


 静かだが、明らかに怒りのこもった言葉をレオンが口にした事に驚いた。それを普段であれば不敬だと諫める王妃様は何も言わなかった。


「……結果として、どうするかは二人で決めることになるだろう。だが、リラ・ライラックをただの準男爵で済ませることは難しくなった。それとも、これだけの偉業をなしたものを、没落した男爵家の娘で終わらせる方がよいというか? 全てを公爵家の功績にするべきだと」


 重い空気だけが流れる。


 黙り切った二人を見ながら整理する。


 王も王妃も、今回の結果に満足していること、そして相手国の評価から私にも褒美を与えなくてはならない。その褒美のついでに持て余している男爵領を、一応娘とされる私に継がせるという。領地を持つからには男爵以上になるが、功績を加味して伯爵まで上げると。


 そうなると、そうか……婿取りになるので、跡取りのレオンとは結婚ができない。


「ああ、そういうことですか」


 納得ができた。


「国策のための婚約破棄となると、レオン様から慰謝料をもらえませんね」


 領地の運営も先立つものがいるだろう。国庫から金を出させるのは申し訳ないが、魔法石の値段を考えれば多少は色を付けてもらってもいいのではないだろうか。


「婚約破棄はしません」


「レオン様が、婿入りすることはできないのですから、結果として仕方ないことです」


 早く婚約破棄したかった。丁度いい。


 これならば、レオンが別にいい人を見つけたからではない。少なくとも、ソレイユ公爵家の価値は上がったし、彼の妹の問題も好転したはずだ。


 私と婚約して幸運があったうえでの婚約破棄だ。



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