第87話 王族たち 前


 国王との謁見のために、城の奥へ案内された。本来は、謁見の間で行うが、国王の体調が優れないことから別の部屋で行うという。


 リラをしっかりとエスコートしながら着いた先は香でごまかしているが少し据えた臭いのする部屋だった。


 カスピアンが玉座の横にいる女性の方が目に付く。


 玉座に座る国王は、齢九十目前と言うだけあって、老衰した姿をしていた。


 かなり禿げた頭には白髪と王の冠が乗っている。白いシルクの羽織りにはよだれのシミが落ちていた。どれだけ高貴な産まれであろうとも、老いは平等だと実感させられる。


「此度の件は感謝する。これで国民たちも安心して漁ができるだろう。と、申されております」


 王の横に膝をついている若い女が王のぼそぼそと言う言葉を代わりに発表する。


「今後とも、ブルームバレー国とは良好な関係を築いてゆきたい。帰国の前には改めて盛大な祝いを準備しておく、とのことです」


 かなり色気のある薄水色の長い髪をした女が言う。両膝をつき、玉座にしなだれるような姿勢で言葉を代わりに伝えるが、胸が強調され過ぎていて、流石にはしたないのではないだろうかと思う。


「お褒めのお言葉、痛み入ります。両国の友好があってこその結果です」


 ある程度の定型文で言葉を返す。


「陛下はご体調が万全ではございませんので、この後のご対応は第二王子と第一王子のご子息様が行います。どうぞ、こちらへ」


 カスピアンが国王に言葉をかけ、仰々しくこちらも別れの挨拶をした後、別室へ案内された。


 言葉を伝える女以外にも、数名の若く美しい女が周りにいた。きらびやかな衣装を着ていたが、共に胸元が強調されていた。


 ふと横を見ると、リラが視線を下げている。


「どうかしましたか?」


「いえ……なんでもないです」


 唇を尖らせて、なにやら不服そうに答えを返され、すぐに作り笑いに戻る。ふと、視線がリラの胸元に行く。


 確かに、リラの胸は豊満とは言えないが、気にしていたのだろうか。


 残念ながら生で見てはいないが、リラは素晴らしい脚をもっていることは知っている。流石にここでそれを褒めるほど馬鹿ではない。


 謁見後、晩餐へという話は事前に連絡が来ていた。あの状況の国王を他国に晒すの正気を疑う。あれならば後継者候補だけが対応すべきだった。俺たちが尊重された結果というよりも、現国王派、そして後を継ぐ派閥たち三方に配慮した結果だろう。まだ国王は健在だと示すために謁見も決行されたように思える。


 晩餐の席として用意された部屋には既に何人かが待っていた。入るとすぐに一人の男が前に出る。四十程度の薄い青の髪をしている。


「お初にお目にかかる。第一王子シーガザーの息子、シーガザヌスと申します。父は生憎予定がありまして、代わりに私がお相手をさせて頂きます。レオン様のお噂はかねがね。妹君が従弟に嫁いだ縁もございますので、今後ともよい関係を築いていきましょう」


「お目にかかれて光栄です。レオン・ソレイユです。ああ、こちらは近く結婚するリラです」


 握手を交わしつつも明らかにリラへ視線を向けるので紹介をする。


「リラ・ライラックです。お見知りおきを」


 リラは完ぺきな作り笑いでお辞儀を返した。


「まあ、シーガザヌス様、他の女性に見とれては、レレン、嫉妬してしまいますわっ」


 そういいながら、若い少女のような女性がシーガザヌスの腕にまとわりつくように抱き着いた。


「そちらの方は?」


 こちらの王族はみな巨乳派なのか、細身の割にしっかりとした胸を腕に押し付けているのがはた目からでもわかる。


「ああ、我が国の聖女レレン様だ。レレン、もちろん、あなただけを見ているよ」


 正面切っていちゃつく中年と若い女を見て、昔連れていかれた店が頭をよぎった。


 リラからならば、嘘くさくても嬉しいのだがとちらりと見たが、一瞬だが引いた顔をしてしまっていた。リラはつい本音が顔に出る。公爵夫人になれば治す必要もあるが、引いてしまう気持ちはよくわかる。


「まだ、セラフィナ嬢との正式な婚約解消は済んでいないと言うのに……」


 俺たちが入ったのとは別のドアから入室してきたのは六十ほどの男だ。白髪の中に薄い青髪が混じっている。


「第二王子のオーシアスである。海賊を見事な水魔法で撃退したと聞いておるぞ」


 握手は求めず、男が名乗る。それに対して先ほどと同じように自身の名とリラに付いて紹介をする。


「海賊の撃退は正確には風魔法で竜巻が発生した結果です。我々も混乱していましたが、何とか逃げることができて助かりました」


 予定通り、リラの功績であることは隠しておく。本来であれば名誉勲章くらい受けるべきだが、ルビアナ国に着く前にこんな面倒ごとに巻き込まれるとは思わなかった。


「ほう、風魔法……」


 細めた目でリラを見ている。値踏みするような顔に気味の悪さを感じた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る