第16話 ドキドキのグループ分け

 クラスは6つのグループに分かれて、それぞれの班で作りたいものを話し合うことになった。

 たいてい、私はこういう場面では誰も誘えず、誰にも誘ってもらえず、ポツンと一人あぶれる役になる。クラスの誰かがそれに気づいて、「後藤さん、残ってるよ」「うちにくる?」って感じで、何とか入れてもらえるんだ。

 ところが、今回は「後藤さん、一緒に組もう」「私も入れて~」と何人ものクラスメイトが机のまわりに集まってきた。

 私はビックリしちゃって、何度もコクコクとうなずいた。

 自然と私も入れて5人の班ができた。同じ班になったのは、クラスの中では比較的おとなしめの人ばかりだ。

 よかった……。児玉さんたちと一緒の班だったら、あきらかに浮いちゃいそうだし。

 さっそく5人で机を向かい合わせに並べて座る。


「えーと、うちの班のリーダーはどうする?」

「後藤さんじゃないの?」

「えっ、私?」

「後藤さんは全体に教える役割だから、両方だと大変すぎじゃない?」

「そっか」

「私がやるね」

 手を挙げたのは和田明日花さん。ふっくらした体形で、いつもゆるく三つ編みを結んでいる。笑うとえくぼがかわいいんだ。図書委員をしていて、図書館に本を借りに行くと、たまに会う。

「じゃ、明日花がリーダーでいい人」

 みんな手を挙げた。

 うううう~。ありがとう、和田さん。気遣いができる人って、和田さんのような人のことを言うんだね、きっと。

「あれ、水木さん、入らないのかな」

 和田さんが、一番後ろの席にいる水木優さんのことに気づいた。ホントだ。表情はいつもと変わらず、まわりの騒ぎには興味なさそうに本を読んでいる。


「水木さんも、どこかの班に入って」

 児玉さんが教壇から声をかけた。

「文化祭は全員参加だから。一人だけ参加しないってのはあり得ないから」

 児玉さんの凛とした声が教室中に響き渡る。それでも、水木さんは本から顔を上げようとしない。

「ちょっと、無視するのはひどくない?」

 児玉さんは教壇を降りて、ツカツカと水木さんの席に向かう。

「み、水木さん、あの、あの、ここに入らない?」

 私は思わず立ち上がった。

 水木さんは、初めて本から顔を上げた。

「こ、この班、まだ入れる、よ……」

 最後は蚊の鳴くような声になっちゃった。水木さんは私の顔をじっと見つめてから、腰を上げた。児玉さんは勢いをそがれて、「何?」って感じで眉をしかめる。

 今までは私が誘ってもらう役だったのに。私が誘っちゃった。誘っちゃった!


 席に座ってからも、ドキドキが止まらなかった。たぶん、顔はまた真っ赤っ赤っ赤だ。

 ひや~、何してんだろ、私。

「水木さん、こっちどうぞー」

 和田さんが手招きすると、水木さんは自分の席を移動させた。

「これで6人。ちょうどいい感じだね。よろしく~」

「よろしく~」

 みんなで言い合うと、水木さんは表情を変えないまま軽く頭を下げた。


「えっと。うちの班は何を作ろう」

「後藤さんのように家を作るとか?」

「どんな家?」

「うーん、学校はどうだろ」

「学校の建物を作っても面白くない気がするなあ。それなら、教室がよくない?」

 みんな、どんどん意見を出している。和田さんはノートを出して、みんなの意見を書き留めていく。

 隣の班が、やけに盛り上がっている。

「ケーキ屋さん、いいよね~」

「ケーキをたくさん作って飾る感じ?」

 げっ。ケーキをたくさん作るって……それを教えるのは、もしかして、私?

「隣の班はケーキ屋だって。うちも建物にすると、なんかかぶっちゃう感じしない?」

 和田さんの言葉に、みんな「うーん、そうかあ」と腕を組む。


「なんか、他の班では絶対に作らないような、面白いもの作りたいよねえ」

「他の班では作らないものって、なんだろ」

「お弁当とか?」

 言ったとたん、児玉さんのいる班で「いろんなお弁当を作るの、楽しそ~」と声が上がった。

「ダメだ。食べ物関係は、もっとかぶる」

「後藤さん、他に、どんなものが作れる?」

「えーと、作ろうと思えば、何でも。私が今まで作ったのは、画材道具とか、文房具とか、更衣室のロッカーとか……キッチングッズとか」

「写真にもあったよねえ。更衣室とか、面白そう」

「ジャージとか、脱いであったりね」

「いいね」

「でも、なんか、地味くない?」

「まあねえ。更衣室じゃなきゃ、音楽室とか?」


「カバンの中身」

 その時、今まで聞いたこともない低い声がした。

 みんな、瞬時に声の主を見る。水木さんだ。

 水木さんは和田さんの手元のノートを見ながら、「みんなのカバンの中身」と、つぶやくように言う。

 水木さんの声って、初めて聴いた!

 ううん、それは言いすぎか。先生に指されたら答えてるし。確かに、いつも低い声でぶっきらぼうに話してる感じだった。

「カバンの中身?」

「女子高生の、カバンの中身かあ」

 みんな、顔を見合わせる。

「面白そ~!」

「いいじゃん、いいじゃん、水木さん、ナイスアイデア!」

「えー、カバンの中ってどんな?」

「みんな、自分のカバンを見せて、見せて!」


 一気に盛り上がる。みんな、自分の学生カバンや補助バッグの中身を机の上に開けた。

 教科書やノート、ペンケース、お財布、スマホは共通だ。それ以外は、意外とみんな持っているものはバラバラだ。

 私は、いつでもミニチュアのアイデアを書き留められるように小さいスケッチブックと、色鉛筆が詰め込んであるペンケースはマストアイテム。それに、ミニチュアの写真集(眺めるだけで幸せ💛)。メイクには全然興味ないから、リップクリームとミニ手鏡とハンドクリームだけが入った小さなポーチ。

 そんな感じで、かわいらしくもなんともない。

「後藤さんは、さすがミニチュアが趣味って感じだね」

「そ、そうだね」

「スケッチブック、見てもいい?」

「どどどうぞ」

 和田さんはスケッチブックをパラパラめくると、「わっ、うまっ。こんな感じで絵を描いてから、作るんだあ」と目を輝かせている。


 そういう和田さんのカバンの中身と言えば。

「アメとチョコレートとじゃがりことか。明日花らしい」

「明日花、いっつも帰りにお菓子くれるもんね」

「だって、小腹すくじゃない?」

「折りたたみ傘って、いつも持ち歩いてんの?」

「だって、急に雨が降ってきたら困るじゃない?」

「ねえ、なんでリップが3本もあるの?」

「だって、塗ろうと思ったら見つからないこともあるじゃない? 3本もあったら、さすがにどれかは見つけられるから」

「それも、普通はポーチに入れるよね。補助バッグのポケットとかペンケースに入れてるなんて、不思議」

「だって、ポーチに全部入れてたら、ポーチを忘れちゃったら全滅じゃない。分散させるほうが安全でしょ」

「なんか……全体的に色はピンクとか水色とか、かわいいのに、残念な感じが漂ってるのは何でなんだろう」

「なによう」

 和田さんはプッと膨れる。それがまた、かわいい。

 図書室の本が入っているのも、らしくていいな。恋愛小説が好きなのかな。


 ほかのみんなは、好きなキャラクターグッズで統一してたり、「基本、全部学校に置いてくから」って、お弁当箱と財布とスマホしか持ってない潔いタイプだったり、タブレットとヘッドホンとか、ハイテクなアイテムにこだわっていたり。

「なんか、うちら、女子高生なのに地味って言うかさ……」

「ねえ。児玉さんたちだったら、たぶん、メイクグッズとかドライヤーとか、キラキラしたものがいっぱい入ってるよね」

「洗面所でドライヤー使ってるとこ、見たことあるなあ」

「で、水木さんは?」

 そう。水木さんだけ、カバンの中を見せていなかった。

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