第93話 気持ちは同じ

「爛れろッ!」


 プシャアアアアアッ!


 ビーストプリンセスは、その口から黄金をも侵す猛毒の体液を吐き出した。

 だが……フレアーはその黒い液体を正面から躱した!


「液体を躱したッ!?」


 口を拭いながら驚愕するビーストプリンセス。


わらわを舐めるでないッ!!」


 ……なんという身のこなし!


 成人した優子のスペックと、フレアーの固有能力が共鳴して、あの回避技術に繋がっているってことなんだろうか……?


わらわは妖魔神の王! 肉体を得た場合に、敵を打ち倒す技術程度身に着けておるに決まっておろう!」


 そう宣言し、フレアーは右手を高く掲げる。

 その手の中に


 漆黒の死神の大鎌が出現した。

 それを両手で構え、ビーストプリンセスに斬り掛かる。


 だけど……


 私たちにはゴキブリダッシュがある!

 ビーストプリンセスは最初から最高速度の動きを見せ


 フレアーの大鎌の一撃は空を切ってしまう。


「寸刻みにしてくれるわッ!」


 攻撃を回避したビーストプリンセスの10の指先から、極細の蜘蛛の糸が発射される。

 その細さは、注視しないと判別できないレベル。


 ……鋼をも斬り裂く、妖の蜘蛛糸……!


 しかし、フレアーはそんな蜘蛛の斬撃糸を躱している!


 見えないはずなのに!


「クッ! ちょこまかと!」


 焦りを見せるビーストプリンセス。

 その両手が複雑に追うが


「無駄じゃ! 止まって見えるぞ! ビーストプリンセスとやら!」


 嗤い混じりのフレアーの声。


 ……だが


 フレアーはビーストプリンセス……春香ちゃんの方に注視し過ぎだ!

 私はその隙を見逃さず。


 ゴキブリダッシュで、フレアーの目の前に出現した!


 驚愕に硬直するフレアー。

 私はそんなフレアーに、容赦なく奥義の回し蹴りを叩き込む!


「阿比須真拳奥義! 肋骨崩壊!」


 私の蹴り足はフレアーの脇に吸い込まれ。

 足先に肋骨が木っ端微塵に粉砕された感触が伝わって来た!


「ブルワアアアアッ!」


 フレアーは蹴りの威力をモロに受け、吹き飛び、傍のビルのコンクリートの外壁に叩きつけられ、クレーターを作った。


 そしてずるりと崩れ落ちながら


「……こ、こそばゆいわ」


 余裕をアピールするフレアー。

 だがそこには、ダメージが感じられる。


 膝を突いているフレアー。


 立ち上がろうとする。

 そこに


「プリンセス戦術千刃!」


 ……私の隣に立つ影があった。


 それは紫色のプリンセス。


 ギリシャ神話の女神の衣装に似た布のドレスを着た姿。


 ……デウスプリンセス。


「ギャアアアアアアッ!」


 デウスプリンセスのスキルシャウトを受けて、フレアーが真空の刃の渦に巻き込まれ、その全身を斬り刻まれていく。

 飛び散る血。彩る赤。


 それだけではなく


「プリンセス機神錬成!」


 もうひとつの影。


 青色のプリンセス。


 その衣装のイメージは、魔女。


 ……ヒューマンプリンセス。


 彼女はその胸の前に出現させた大穴から、多分全体の身長は20メートルはあるだろう巨大ロボの腕を生み出して、フレアーにその機械の拳を叩き込んでいた。

 機械の巨大な拳を受けたフレアーは、コンクリートの壁にその拳と一緒にめり込まされる。ひび割れる壁。


「デウスプリンセス! ヒューマンプリンセス!」


 私は感極まって、涙混じりの声でそう呼び掛ける。

 彼女たちは


「……この地球を守りたいという気持ちは同じ」


「例え、追いかけたウチらの夢を正面から叩き壊した相手でも、それとこれとは別問題や」


 ありがとう……ありがとうございます!

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