第69話 ゲヘナプリンセスの恐怖

 ゲヘナプリンセス……!

 優子が六道プリンセスと同等の存在に変身してしまった……?


 私の脳裏に、優子が家に来てから一緒に過ごした日々が蘇る。


 優子とは一緒に……


 ご飯を食べたし

 家の掃除もした。

 病死肉も買いに行った。

 庭の檻で飼ってる羆で、孤戮闘こりくとうで脱落したのを一緒に捌いた。

 一緒にバラエティ番組を見たし。

 お母さんと一緒に外出もした。


 もう、家族の一員。

 そう思っていたのに……


 そういや、なんで優子は私のこと最初から閻魔花蓮だと分かってたのかな?

 どうでもいいけど。


 あれか。きっとストーカー枠の拡大解釈で認識阻害の外の存在だったんだよきっと。

 ずっと一緒にいたから。


 うん、きっとそういうことで。


「優子、その姿で何をするつもり……?」


 些細な疑問が解決した私が持っていた他の疑問。

 その問いに、優子は笑顔でこう答えた。


「とりあえず東京に行って、国会前で下らないデモをやってる連中と、議論する価値の無い議題を国会に上げようとしている議員を血祭りにあげようと思ってる」


 ……なんですって!?


 私は叫んだ。


「そんなことやっちゃダメだよ! 許されないよ!」


「我、別に許されなくてもいいよ。その必要も無いし」


 ニコニコしながら。


 ……このままでは義妹がテロリストになってしまう……!


 私が止めないと!


「ドラアアアアア!」


 決断し、踏み切る。

 そのまま私は優子……ゲヘナプリンセスに挑む。


「阿比須真拳奥義! 前歯粉砕!」


「阿比須真拳奥義! 肋骨崩壊!」


「阿比須真拳奥義! 大腿骨開放骨折!」


 人中一本拳、脇腹鉤突き、下段蹴り。

 3連撃のコンビネーション。


 全て命中し……


 だけど……


 前歯は折れていないし。

 肋骨も折れていない。

 大腿骨もそのまんまだ。


 ……全く効果が無かったのだ。

 優子は全く平然としていた。


「!!」


 私は真っ白になる。

 自分の阿比須真拳が通じない。


 その可能性を考えたことは今まで無かった。


「……花蓮お姉ちゃん。なんとも未熟でこそばゆい阿比須の技だね」


 愕然とする私に優子はニヤリと笑いながら


「これは我、義妹としてお姉ちゃんにワカラせる必要があるよね……」


 ……ゾッ、とする。

 バトルになったとき、これまで恐怖を感じたこと……


 無かったかもしれない。


 だからこれが……

 はじめての恐怖……!


 優子は私に襲い掛かって来た。


「阿比須族滅流奥義! 肋骨大崩壊!」


 優子の胴体を狙った回し蹴り。

 私は腕でガードをした。


「阿比須真拳奥義! 鉄身五身!」


 鉄身五身込みで。


 したんだけど……


 ヒットの瞬間、ガードに使った私の左前腕がへし折れる!


 一瞬遅れて伝わって来る激痛……!


「アアアアアアッ!」


 私の腕をへし折った威力は、それだけでは留まらず。

 私を商店街のシャッターに突っ込ませ、凹ませた。


 うう……


 ずずず、と崩れ落ちる私。

 脂汗を流しながら。


 痛い……! 超痛いよ……!


 泣き喚きたかった。

 あまりの苦痛に。


 だけど……


 ダメだ!


 ここで泣くのは絶対にダメだ!


 歯を食いしばり……立ち上がる!


「……花蓮お姉ちゃんは、基本中の基本、鉄身五身の常駐が出来て無いね。敵の攻撃が来たと理解した瞬間に使ってる。……それはもう、初心者以下だよ」


 優子は口に笑みを浮かべながら……とても厳しい目で私を見る。

 そしてゆっくりと歩き、近づいてくる。


 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……


 折れた左手をぶら下げながら、残った右手を構える。

 荒い息で。


「プリンセス焦熱地獄!」


 阿比須真拳が通じない。

 ならば特殊技能プリンセススキルで戦うしかない。


 私の残った右手から放射される真っ赤な炎。

 片手が折れている以上、1万度の炎を放射する大焦熱地獄は使えない。

 だからこの技だ。


 それは優子を焼き尽くそうと襲い掛かるけど


「プリンセスヘルフレイム」


 優子は両手を広げてスキルシャウト。

 その瞬間、彼女の周囲を紫色の炎が吹き上がり、私のプリンセス焦熱地獄を掻き消した。


 ……予感だけど、おそらく大焦熱地獄でも通じなかったと思う。

 完全な、私の上位互換……!


 ど……どうすればいいの!?


 そんなときに


 ……私の前に、春香ちゃんが立ち塞がったんだ。

 ガタガタ震えながら。

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