第53話 神の試練

~少し時間を遡る~



琢磨蘭子たくまらんこ目線



 私は琢磨蘭子。

 42才の専業主婦……だった女。


 私は器の小さい、恩知らずのクズ野郎のせいで、離婚されたばかりか多額の慰謝料を取られ、毎月養育費まで奪われている。

 この国は狂っている。女に厳しすぎる。


 私にはずっと付き合っている恋人がいた。

 彼はパチンコが大好きで、いつも夢みたいなことばかり言って、とても駄目な人だったけど。

 大好きだった。


 彼も私のことを真剣に愛してくれていた。


 でも、神様は残酷だ。

 彼に、結婚するのに申し分ないだけの生活力を与えなかったんだ。


 このままの彼では、とても結婚できない。

 私も働かないといけなくなり、加えて働いても赤貧決定だ。


 そんなの、耐えられない。


 どうすればいいだろう……?


 そこに、ナイスアイディアが降って来たんだ。

 ちょうどそのとき、大学のゼミで将来有望な童貞男と偶然親しくなった。

 もうどう見ても童貞。私を見てドキドキしているのが見て取れた。

 

 普通なら「私を見て欲情しないで気持ち悪い!」と言いたいところだけど。


 この男、確実に彼氏よりはお金を将来稼ぎだす。

 だったら、この男に稼がせて、子供は彼氏の子供を作って産む。

 これをやれば、理想の結婚生活を送れてしまうじゃない。


 彼氏に無い財力を、こいつで補うんだ!


 そう思い、私はそいつを誘惑し、大学卒業後に結婚した。


 そして、第1子妊娠。

 ここで、的確な避妊を失敗して、うっかり彼氏の子供でなくこいつの子供を産んでしまった。


 ……DNA鑑定しなくても分かった。

 だって顔がこいつだもん。


 キモチワルイ。


 かわいくもなんともないから、母乳は一切与えず、粉ミルクだけで育てた。

 母乳は、彼氏との母乳プレイにしか使わなかった。


 で、2回目は慎重に妊活を行って、妊娠検査薬で陽性になってからこいつとのセックスをするようにした。

 ……正直、今度は日数で托卵がばれてしまう可能性を考えたんだけど。


 今度は神様が味方をしてくれて。


 バレずに行けたのよ。

 全く。


 1回目から味方をしてくださいよ。

 神様。


 そしてその後は、正直もっと彼氏の子供を産みたかったけど。

 危ない橋を2回も渡れないので、泣く泣く諦めた。


 ああ……なんて可哀想な私。


 そして14年の月日が流れたとき。


 何故か托卵がバレた。


 正直、私は神を呪った。

 何故私たちの様な最高のカップルに、こんな理不尽な試練をお与えになるのですか!?


 その後、離婚。

 離婚されたら、私は収入を失う。


 焦った。

 次の収入源を探す間、慰謝料と養育費でやっていけるだろうか……?


 そう思っていたら


 そんなもんは出ない。


 あのクズ野郎にそんなことを言われてしまった。

 あのクズ野郎は、こういう状況で嘘を言ってハッタリを掛ける人間では無いのを知ってはいたから。


 絶望した。


 私は今後の人生、彼氏と赤貧状態で過ごさざるを得ないのか、って。


 その後は地獄の生活だ。

 朝から晩まで毎日パートでフルタイムで働いて。

 稼いだ金の殆どを、養育費や分割した慰謝料の一部で奪われる毎日。


 なんで真実の愛を貫こうとしただけなのに、こんな目に遭わないといけないんだ。


 最低だ。最低の国だ!

 もっと良い国に生まれたかった!


 例えばアメリカみたいな!


 低賃金でこき使われて、クタクタになって、毎日眠る。

 その日もそんな生活の延長で。


 家で少しだけ転寝していたんだ。


 ……なのに。


「おい、起きなよ」


 女の子の声。


 ……目覚めたところ。


 それは……コンクリート打ちっ放しの部屋。

 広さは100平方メートル程度。

 知らない部屋だ。


 そんな部屋に、彼女はいた。

 丸い簡易椅子に腰かけて。


 見たところ女子高生。

 かなりの美人だった。


 ブレザーの制服を着ている。

 腰に日本刀をぶら下げて。


 背が相当高く、背中に余裕で届くロングヘアの女の子。


「誰? あなた……?」


 知らない子だったので、訊くと。


 その子は……こう答えて来た。

 無表情で。


「私は阿修羅咲。世界で3人いる、腕力家の1人よ」


 ……私はその瞬間、大量の冷や汗を掻き始めた。

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