第48話 藤上さん

 藤上さん。

 フルネームは藤上夕夏ふじがみゆうかさん。


 実は生徒会に関わるまで、彼女が同じクラスであるという自覚がなかった。

 私自身、クラス中で無視されるって言うキツい状況だったから。


 まあ、名前は知ってたけど、それだけ。

 そういう状況で。


 だからまあ、私が藤上さんに声を掛けたのは最初、それほど重大事であるという自覚というか思いは無かったんだよね。


 その日、何故か藤上さんはお昼の時間になってもお弁当も出さないし、購買部にパンを買いに行ったりもしなかったんだよ。


 なので


「藤上さん、今日はお昼ご飯食べないの?」


 私が自分の席で。

 おじやのタッパーと炭酸抜きコーラとバナナを1房取り出して、お昼ご飯をはじめようとしているときに。

 何も机に出さずに、じっと座ってる子が1人。


 気になるよ。そりゃ。


 すると


「ああ、ちょっとダイエットなんだ」


 苦笑いで、そんなことを言っちゃう。


 ……いやあ、それはダメでしょ。

 中2の成長期に。ダイエットとはいえ絶食なんて。


 なので


「いや、それは間違ってるよ。成長は今しかできないんだから、絶食ダイエットは選択肢に誤りが」


 そう言って、バナナを1本、房から千切って差し出したんだ。


「あげる。どうぞ」


「……ありがとう」


 ダイエットだと言っていたのに。

 やけにあっさり私のバナナを受け取ってしまう藤上さん。


 よっぽどおなかが空いていたのか。

 あっという間に食べちゃった。


 ……だったら、絶食やめたらいいのに。


 そのときの私は、そう思っていたんだよね。




 その次の日から。

 藤上さんはお昼の時間に教室から消えるようになった。


「藤上さん、購買部に行ってた?」


「いや、来てなかったよ」


 そう、お昼は購買部であんパンを買ってきて、その場で食べて戻って来る。

 それをルーティーンにし始めた国生さんに訊ねたら、返って来た言葉がそれで。


 ちょっとわけが分からなかった。


 ……ああ、ちなみに。

 国生さんがお弁当からパン食に切り替えたの。


 国生さんが六道プリンセスになったので、病気にならなくなったから。

 栄養バランスの崩壊による体調不良。

 これが無くなったからと。


 あとひとつは、国生さんが六道プリンセスになったあの日。

 自己保身で、自分の手でお弁当をダメにしたから。


 そのケジメをつけるために、今後はお弁当を作ってもらうのを断った。


 そう言ってた。

 真面目な国生さんらしい。


 でも、私は気になったのでバキに


「国生さんがあんなことしてるけど、六道プリンセスとして大丈夫なの?」


 って聞いたんだよ。

 変な食生活をしてるせいで、国生さんが異様に痩せたり、逆に太ったりしないのか? って思ったから。


 すると


「六道プリンセスになったら、どんな食の内容でも、それが絶食や異様な過食でない限り、標準体重は維持されるから大丈夫だよ」


 そう、言われた。


 六道プリンセスになったら、例えば阪神が勝ったときだけ食事が出て、負けたら食事抜き。

 こういう状態でも。

 そこにポカリの常時供給さえあれば、健康上何も問題なしで、標準体重のまま熱狂的阪神ファン生活を送れるんだって。


「伝説の戦士なんだもの。当然さ。……食事の有無で戦えなくなるような状況、僕らが許すはずが無いだろ?」


 そう言ってバキはニヤリと馬面で笑った。


「えっと、じゃあ私のおじやと炭酸抜きコーラとバナナも意味が無くなってしまったの?」


 バキの話が気になったので、ついつい自分の話もしてしまう。


 すると


「ああ、そういうのは別。戦士としての身体づくりを意識した食事は良いんだ。問題は、そういうことから外れる食生活でも、戦えるギリギリのラインの健康状態と体型は維持されるよ、ってこと」


 ……なるほど。

 超都合良いよね。

 私たち、普通のJCにとってみれば。


 つまり、基本私たちは「食事にプラスはあってもマイナスはない」そういうことなんだよね?


 ……いいのかなぁ?

 こんなに恵まれてて。

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