第44話 よってたかって浄化完了

 意識を失ったシンヤさんを、飛馬先輩と一緒に安全地帯である建物の影に運び込んで


 私は六道ホンを取り出した。


「いくで祈里!」


「ええ菜々子!」


 見ると。


 向こうに、青のジャケットと灰色のデニムスカート姿の天野先輩と、制服に白衣を身に付けた飛馬先輩。


 向こうは六道ホンをパカと開けキー入力。

 私も慌てて、同様の行動を取る。


 4・5・6


『Standing by』


 電子音声が流れる。


「変身! 六道シックスプリンセス!」


 私たち3つの叫びに応じる電子音声。


『Complete』


 そして私たちは光の球に包まれた。




「ナ、ナニィ!」


 その3人の戦士……いや、ビーストを混ぜて4人の戦士を目にして。

 妖魔獣は気圧されていた。


 ……分かっちゃうのかな。


 このうちの、たった1人でも十分余裕で自分を抹殺できる戦士であることを。


「完全なる人間! ヒューマンプリンセス!」


 青い衣装を身に纏った六道プリンセス。

 他の六道プリンセスは魔法少女のイメージがある衣装だったけど。


 これは、はっきりいって魔女だった。

 変身しているのは飛馬先輩。


 とんがり帽子は無かったけどね。

 頭は三つ編みのお下げのまんま。


「天上道の支配者! デウスプリンセス!」


 紫の衣装を身に纏った六道プリンセス。

 こちらも魔法少女っぽくない。


 ……なんかギリシャ神話の女神が身に付けていそうなドレスだ。

 変身しているのは天野先輩。


 まあ、2人とも中学生に見えない人だし。

 らしいのかもしれない。


 2人は、妖魔獣の前に立ち塞がり。

 厳しい目を向けているのはデウスプリンセス。


 彼女は言った。


「自分の息子と言ってもおかしくないような男子に求婚しないで気持ち悪い!」


 すると妖魔獣が反応する。


「人生経験積んでない未熟なガキは黙れッ!」


 そんな鳴き声と共に触手が複数、デウスプリンセス、つまり天野先輩を襲う。

 デウスプリンセスは動かない。


 動かず、その右手を高く掲げた。


 掲げて


「プリンセス戦術神風!」


 同時に。

 妖魔獣の位置に、巨大な竜巻が発生。


 妖魔獣を巻き込み、宙に高く巻き上げられる。

 宙に高く打ち上げられた妖魔獣に、天野先輩は言葉を叩きつける。


「あなたたちは相手男性の子供を産むことができない! つまりあなたたちは若い男性に求婚する資格が無いのよッ!」


 天野先輩の容赦ない言葉に、妖魔獣は発狂する。


「女は子供を産む機械じゃない!」


 鳴き声と共に触手が伸びて、天野先輩を捉え……


「プリンセス機械錬成!」


 その触手が、横合いから突如出現した回転体にぶった切られた。

 それは全体像はヨーヨーみたいな円盤で。

 高速回転して、側面に並んでいる鋭く太い刃で触手を切断した。


 ヒギャアアアア!!


 悲鳴をあげる妖魔獣。


「……男もお前らの奴隷じゃないんやわ。知らんかったんか?」


 機械の巨大手裏剣を錬成し、妖魔獣に投げつけた飛馬先輩。

 両手を前方に突き出して、そう一言。


 続けて天野先輩は。


「子供が産めない以上、あなたたちと若い男性が結婚した場合、それは相手男性の断種を強制してるのと一緒なんだと気づきなさい」


 ツープラトン。


 それに対し妖魔獣は


「子供が欲しいなら養子を取ればいい! 店長は金持ちなんだからそれぐらいッ!」


 そうすると天野先輩が


「お前たちはこの人の家族の権利まで侵す気かッ! 相手の家に緩やかに絶えろと命令するのかッ!? 何様だお前たちはッ!」


 一喝。

 まあ、天野先輩はシンヤさんの妹だしね。

 余計腹立つ鳴き声だと思う。


 そこに


「ものっそ邪悪やね。そういう醜さが、今の状況に繋がってるっていい加減気づきーや」


 飛馬先輩は穏やかに、しかし核心を突く一言。


 そんな2人の前に落下してくる妖魔獣。

 そんな妖魔獣に、2人はさらに言葉を叩きつける。


「お前たちにも若いときがあった! 何故そのときに何が何でも結婚しようとしなかったッ!?」


「まるでアリとキリギリスやね。夏の時間に頑張らなかったせいで、冬になって行き詰ってるのに、過去の自分を責めずに周りのせいにする。恥ずかしくないんか?」


 ……全く容赦ない発狂りかいさせ。


 あ、鮮やか過ぎる……!


 すると。

 妖魔獣は震えだし……


 起き上がって


「若いときは遊びタカッタンダ! 何故注意シテくれなカッタ!?」


 ……おお。


「悪いノハ全部世の中! 私ハ全く悪くナイ! この国ハ狂っテイル!」


 完全に発狂りかいした鳴き声。


 ……浄化のときだね。


 私たち4人のプリンセスは頷き合い、それぞれ浄化技を繰り出した!


「プリンセス化学錬成!」


 飛馬先輩は向き合わせた両手の間に光の球を発生させ、それを妖魔獣に撃ち出した。

 撃ち出された光の球は、妖魔獣の真上で透明な液体に変化する!


 全身にその液体を浴びる妖魔獣!


 その液体を浴びた妖魔獣は、煙をあげて焼かれていく!

 体細胞から水分を奪い取られるために!


「……濃硫酸や」


 ニヤリと会心の笑みを浮かべる飛馬先輩。


 続いて、国生さんが背中に鶴の翼を生やして、のたうち回って苦しんでいる妖魔獣に接近。

 その3つの顔面に


「プリンセス・スネークポイズンブレス!」


 酸の息を吐き出して、その肺を焼く。


 あぎいいいいい!


 全身を硫酸で焼かれ、肺を酸の息を焼かれ。


 さらに


「プリンセス戦術天誅!」


 天を指差す天野先輩。

 同時に。


 天空から凄まじい落雷が妖魔獣に突き刺さる。


 ギャアアアア!


 悲鳴。

 しかも1発じゃない。

 絶え間なく連続で。


 1発ごとに悲鳴が小さくなっていく。


 ……これだけでも終わりそうなんだけど。

 私も負けてられないわけで。


 私は両手を向けて、特殊技能プリンセススキルのスキルシャウトをする。


「プリンセス大焦熱地獄!」


 私の手から放射される青い炎。

 その温度、1万度。


 1万度の炎を浴び


 アーッ!


 妖魔獣は、灰すら残さず完全消滅した。


 ……浄化完了!

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