第33話 割り勘が最高だよね!

「ば、馬鹿な……! これほど悍ましい心を持った妖魔獣たち4体が、3分掛からず全滅だって……!? 信じられねぇ……!」


 筋肉男ノロジーは私たちの浄化に、恐れ戦いていた。

 ……私たちは伝説の戦士なんだッ! こんなのわけないよッ!


「何度でも来なよ」


 バーサーカープリンセスこと、咲さんが進み出て、言った。

 この中で一番の年長者だからかな。

 代表として。


「来るたびに浄化されて他責思考を無くした真人間が増えていくだけだから……」


 これは、グラトニープリンセスこと萬田君。

 そっと、咲さんの傍を確保しつつ。


 ……あの2人……なんかやらしい感じがするんだけど。

 私の心が汚れているんだろうか?


 そしたら


「そ、そうだよッ! 私も閻魔さんと一緒に、何度来ても戦うよ! びょ、秒殺してやるから!」


 ビーストプリンセスの国生さん。

 うん……そうだね。


「そういうわけだから。絶対に、妖魔獣の餌食になる人を出したりしないよ……私たちが居る限り!」


 そして私は啖呵を切った。

 それに対しノロジーは


「お、覚えていやがれ! 俺様はこの屈辱を忘れないッ!」


 そう言い残し。

 空間の歪みに消えて行った……




 そして。

 その後警察が駆けつけてきて。

 4人の熊さん信者たちは、銃刀法違反で逮捕された。

 

「私たちは、阿修羅さんが私たちのくだらない考えに従わないことに腹を立てて、近所のアーケード街の骨董品屋に忍び込み、銃火器を盗み出して……」


「銃を持てば阿修羅さんに勝てるなんてアホなことを、アホな動機で考えて……なんて馬鹿だったでしょうか。情けない……」


「出所後は仏門に入って修行します。後の人生、一生小坊主でも構いません……」


「俺たちの人生は、ここまで全て無駄だった! そしてそれは全部俺たち自身のせいなんだー!」


 ……他責思考を無くし、自責しまくりながら、泣きながら連れていかれた。

 前よりはマシな人間になって欲しいよ。


 ああ、ちなみに。

 連中が銃火器を盗み出したアーケード街の骨董品屋。


 その後、警察の捜査が入って、そっちも逮捕されたらしい。


 そこの店主は「世界が終わるときに備えて、本当に必要なものを皆に売っていただけだ」って最後まで言い張ったらしい。

 そういうタイプの人が、私たちの最後の敵なのかもしれないね。




 そんで


「あーあ」


 私は歩きながら溜息をついた。


 今日は散々だった。

 本来なら、賞金で国生さんと一緒に、カロリーゼロの白いバニラアイスを食べに行っていた。

 そのはずだったのに。


 潰れて、おじゃんになったから。


 すると


「大食い大会、良かったのかもしれないよ?」


 隣を歩く国生さん。

 ちょっとだけ意味が分からなかったので


「何で?」


 と訊き返した。


 すると、国生さんは答えてくれた。


「……多分、あのオレンジ色のジャム、食べられないものだよ。何のジャムか謎だけど……」


 だから100万円なんて、こんな田舎町のイベントとしては破格の賞金額になんったんだよ。

 ……この実績は、重く見た方が良いと思うな。


 ……なるほど。

 私は「頑張れば大体なんとかなる」でずっと生きて来たから、そういう「そもそも無理なように作ってる」ということが分からないのかもしれない。

 でも「100万円を貯めた実績は重く見るべき」という話は分かる。


 ……それぐらい多くの人が失敗してしまった、ってことなんだから。

 そこを考慮できないのは、傲慢だ。


 だから。


「んー、ありがとう」


 お礼を言った。

 何でもかんでも、挑戦すればいいってものでも無いよね。


「もうちょっと、出来ない可能性についても考えてみるようにする」


 そう、続けて。


「……国生さん、いくら持ってる?」


 私はとりあえず、2000円だけど。

 すると


「え……?」


 いきなり言われて、戸惑う国生さん。

 でも、すぐに対応してくれて


「えっと、5000円くらいかな」


 うお、多いな……。

 ちょっと驚く。


 私の倍以上……


 私がその辺をコメントすると


「……巻き上げられてた分、返金されてきたから」


 ああ……なるほど。

 嬉しそうにそう言う国生さんを、私は見つめて。


「じゃあ、400円あるよね。一緒に555ファイズアイスクリームで、バニラアイスを食べようよ」


 私も2000円あるから。

 そう提案する。


 すると


「えっと、私が2人分出すよ?」


 私が2000円しか持ってないからか

 そんなこと言われたので


「それは嫌」


 拒否した。

 すると


「え」


 国生さんはちょっと理解が追い付かないような顔をしたので、言ってあげた。


「……人間の仲違いの原因は、8割はお金と恋愛なんだよ?」


 これはお母さんからの受け売りだけど。


 だから


「私、友達とお金で喧嘩したくない」


 そう言ったら。


 国生さん、何故かすごく嬉しそうな顔をして


「うん。そうだね。割り勘が最高だよね!」


 同意してくれたんだ。

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