第17話 2人は六道プリンセス

 クラスメイトの国生さんが六道シックスプリンセスに変身した。

 そして私の見ている前で、瞬く間に最後の汚礼妖魔獣を浄化してしまった。


 正直、すごいと思った。


 私みたいに、格闘技の技術に裏打ちされた強さじゃ無いけど。


 自分に搭載された特殊技能プリンセススキルを駆使して戦っている感じ。

 まさに……獣のプリンセス。


「やった! 私にも浄化が出来た!」


 汚礼を爆散させた後、飛び上がって喜んでいる。

 そして


「閻魔さん……いや、ヘルプリンセス! 私もこれからは一緒に戦うから!」


 私に近づいてきて、そう一言。


 その後、彼女は真顔になった。

 さっきまで、勝利のハイテンションで満面の笑みだったのに。


 で、それが何でなのか、すぐ分かった。


「……ごめんなさい。何言ってるんだろ、私……今まで閻魔さんに恩を仇で返すような真似をして、今日また、さらにもっと酷いことを……」


 俯いて、そう言った。


 ……今まで私を無視することに加担したり、今日、私のバナナを床に落としたことを恥じてるんだね。


 いやもう、別にそれは良いんだ。

 そんなことはどうでもいい。


 国生さんは、自分の罪を忘れない。


 仕方なかったんだ、って言い訳しない。

 それだけで充分素晴らしいと思う。


 だから


「助けてくれてありがとう。助かった。汚礼の妖魔獣を他責マックス状態に追い込むの、私じゃ無理だったから」


 国生さんの謝罪を、完全に無視した。

 無視して、今日受けた恩に対するお礼だけ言った。


 ……私はそんなに口が上手い方じゃ無いから、本気で私に謝ってくれた国生さんに対する上手い返しが思いつかない。

 だから無難な、今日受けた恩に対するお礼だけ口にする。


 ……駄目かな?


 すると……


 国生さんがポロポロ泣き始めた。

 わわわっ!


 私は慌てる。

 これは失敗だったのか!?


 そこに


「……馬鹿な。あれほどの完成度の妖魔獣3体を倒してしまうなんて……?」


 妖魔神の勢力のひとり。

 確か三人衆の……アビ。


「妖魔獣は、素体の心が醜ければ醜いほど強くなる……それを、お前たちは……!」


「これからは私たちがアンタたちの企みを阻止してあげるから!」


「そ、そうだよッ!」


 私と国生さん。

 2人の六道シックスプリンセスとしての宣戦布告。


 どうだ!


 すると


「……なるほど……覚えておくよ。次を楽しみにしていろ……六道シックスプリンセスとやら!」


 そう言い残し。

 現れたときと同様に、空間の歪みを作り出して消えてしまった。


 ……戦いが終わった。


 私たちの戦装束であるプリンセスフォームは、光と共に解除。

 元のセーラー服JCに戻った。


 同時に。


 荒れまくっていた教室は、元のように全部直り。

 陥没していた床も、乱れ飛んだ机も、元通りになった。


 そして……


「う……」


 3人の札付きの不良……五味山、九相、汚礼たちも、爆散してミンチになった妖魔獣の死体が消滅した瞬間。

 変異を起こす前の肉体のままで、そのまま復活した。


 そして頭を振りながら起き上がった。

 そんな彼らに


「……今の心境は?」


 私は問う。

 すると……


「お、俺たちは……何て馬鹿だったんだろうか!」


「俺もだ……親に注目して貰えないから、札付きの不良になって強制的に注目して貰おうなんて……どう考えてもイカれてるだろ……!」


「他の親に愛されている奴らが憎いなんて……! クズとしか言いようがない! だから俺は誰にも大事にされないんだ……!」


 全員、ガックリと床に手を突き、声を殺して泣き始めた。

 自分が幼稚で、度胸が無く、怠惰で卑怯で醜いどうしようもない存在だと自覚したらしい。


 ……これで彼らは、明日から真人間に向かうはずだよね。

 きっと、これで良いと思う。


 この街をかつて更生させたって言う、閻魔家のご先祖様も喜んでくれるよ!




 そして。


 停学中の身でありながら、学校に登校したばかりか、ナイフまで持ち込んで来た汚礼は、反省が足りないということで停学3年が6年になった。

 他の2人は問題行動が発覚しなかったため、お咎めはなかったんだけど……


 2人とも、次の日頭髪を全て剃り落とし、スキンヘッドで登校して来た。


「皆さん申し訳ございませんでした」


「これからの俺たちを見て貰うためのケジメです」


 変形の制服では無く、普通の学ラン。

 どこも校則に違反していない、真面目な格好。


 ……ちょっと異様に映るけど、前の状態よりは良いはずだよね。

 教室も、昔みたいに息の詰まる空間じゃなくなった気がする。


 そうして、これからの明日に希望を持ったところで。


 バキに


「……僕が受け持つべき2人の六道シックスプリンセスが揃ったから、説明しなきゃいけないことがある」


 昼休みに、国生さんと2人、お昼を食べているときに言われたんだ。


「放課後、屋上に集合だ。いいね?」

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