国外追放で蘇生する

「終わったぁぁ!」


 ヘルが大声でそう言った。どうやら蘇生術式を組み立てることに成功したらしい。

「リリスー!すぐにここを出発できるようにしておいてー!」

「わかったー」


 * * *


「多くなった荷物は亜空間に入れておいてっと…この空間も便利だよねー。カーティスももっと魔術を極めたら使えるようになるよー」

「僕は大丈夫かな…?多分。僕には黒い箱これがあるしね」


 そう言うと,カーティスは正体不明の黒い箱を取り出した。


そうして二人はそれぞれの亜空間に入れて出発の準備をした。


「二人とも速いねー。それじゃあ…早速蘇生術式を発動するよ」

 ヘルは詠唱を始めると,ゲーヘナは話し始めた。

『まずこの魔法陣に入ってください。……短い期間でしたが,ありがとうございました。私の書いた懺悔の書には,地下世界との交信術式がありましたよね?もし私達に用がありましたらこちらを使ってください』


 ゲーヘナがそれを話し終えると,ヘルも詠唱を唱え終わった。

『最後になると思うんだけど…今までありがとう!これからも楽しく,安全に旅を楽しんでね……あと私たちのことも忘れないでほしいな』

ヘルたちの声はノイズでまみれていてあまり聞こえなかったが,旅を楽しんでねと言っていたと思う。


リリスは笑顔で大きく手を振ると,視界が光で埋め尽くされた。


 * * *


「こ,ここは…?」

 カーティスが目を細めながらそう言った。

「うーん。多分太陽があるってことはもう地上の世界に来たんじゃないかな?」


 リリスが見たところ,冥界の目印となる塔の外にいた。

「うーん…死者の国ヘルヘイムの塔が見えないんだけど…」

「カーティスには見えないの?じゃあ,もしかしたらヘルが私達みたいに彷徨ってくる人間が減るようにこの世界を視るのに必要な魔力レベルを上げたのかもしれないね」


「あれー!?リリス様にカーティス様じゃないですかー?死者の国に入ってからもう二週間も経っていたんですよ!?」

 陽気な声で話しかけてきたのは,御者のジェイクだった。

「二週間…?死者の国では四日だったと思うんだけど…」

「もしかして死者の国と地上世界の時間感覚は違うのかな?」

⦅そういえば図書館で経過時間が違うみたいなこと書いてたかな?⦆


 二人はジェイクの馬車に乗り,次の国について話していた。

「次はどんなところなんだろうねー?」

「死者の国の近くには国なんてないだろうし……しばらく国にはつかないんじゃないかな?」


 カーティスが言ったとおりだった。都市が見えてくるまでおよそ一週間かかった。そこまでで起こった出来事といえば,盗賊にあったことくらいだ。

「なんで盗賊に遭っちゃうのかなぁ……?しかも弱いしー」

「そうやって思っているのはリリスだけだと思うよ?実力はそこそこあったし」

 カーティスは苦笑いをしながら,再び馬車に乗った。


「そろそろ次の国に来てもいいと思うんだけど…」

「あっ,そろそろ国が見えてくると思います!ほらほら都市が見えてきましたよ!」

 リリスとカーティスが地図を覗いたところ,この地域周辺の国は芸術の国・アルティスタしかなかったので三人はそれぞれの思いを抱きながら,その国に向かうことを決めた。

⦅芸術の国・アルティスタかぁ…前世でも絵画とかイラストとかはもちろん,音楽とかも大好きだったから…そういうのも楽しめるといいなぁ…⦆

 リリスは国での楽しみなことを考えてうきうきしていた。


 * * *


「うぅ…あぁ…酔った。うえぇぇぇ…カーティス,お水頂戴」

「はい。大丈夫?とりあえず国に到着したら酔い薬は買っておこう?」

⦅まさか元の世界の状況(ステータス)が引き継がれて乗り物酔いがさらに酷くなってる…⦆

「リリス様大丈夫ですよ!ほら,見えてきました!あれが芸術の国アルティスタですよ…リリス様!?我慢してください!?」


 気持ち悪くなったリリスが見たのは,巨大な神殿だった。そこを中心として都市が広がっている。馬車を出ると,音楽が流れていた。どうやら祖国・ローゼンタールの国家を作曲した人が作ったらしい。

「うわぁ…きれいな街ぃ…おえっ,気持ち悪い…うえぇぇぇぇ」


 吐いてしまった…しかも,カーティスの腕に,だ。

「あっ…ごめん…」

「いいよいいよ。それよりも薬局だ。近くにあるらしいから先に宿に行ってて!ジェイクさん,付き添ってくれますか…?」

 カーティスがそう言うと,ジェイクは快く引き受けてくれた

「リリス様,大丈夫ですか?良ければ背負いますよ?」

 ジェイクの厚意で背負ってもらうことにした。

「ありがとうございます…」


 今回泊まる宿は,晩御飯でジャズなどの音楽を聴けながら食べれるというリリスにとってはご褒美のような宿だった。

「うぉぉぉぉ!見て見てカーティス!いろんな絵画があるよ!どれも見たこともないものばっかり…」

「もう治ったの?確かにここの街はすごいなぁ…僕の好きな演劇の聖地がここらしいよ!」


 いつも冷静(リリスにアプローチする時を除く)なカーティスもうきうきしている。

「もう夕方だねぇ…食事会場に行こっか!」

 食事会場には沢山の人がいた。リリスは今から何が起こるのだろうと,辺りをきょろきょろしていると,突然照明の光が消えた。

「あっあっあー…えー。レディースアンド,ジェントルマァァァン!ようこそお越しくださいましたァ!本日司会をさせていただきます。アロルドと言いまーす!」

 マイクなしで言ったアロルドという男はそれからも話し続けた。

「…えー。次の演劇は創世神話でーす!この話は全てのものを統べる創造神が最初に創ったとされる人間二人と神の創世の物語ですっ!それではどーぞ!」


 演舞ももちろんだったが,食事もとても美味しかった。

「はい,あーん!美味しいねえ」

「美味しいねー。もっと食べさせてよ」

「えっ!?リリスが…甘えてる!いいよもっと食べて!」

⦅そんな珍しいことだったかなぁ?⦆

そんなことを考え,幸せな三時間はあっという間だった


 * * *


 別の部屋だが,ジェイクも今回は同行することに決めた。

「ふぁぁぁ…めっちゃ美味しかった!」

「そうだね。ふふっ,あーんはよかった…」

「寒い…カーティス,ちょっとベッドに入らせて」

「はっ!!??いや待って待って流石にそれは展開が速すぎるって!?」


 カーティスは,寝ることが出来なかったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る