国外追放で戦闘をする
目を覚ますと,知らないうちにヘルに抱きついていた。
「うぅ…リリスが抱きついてきたせいで眠れなかったんだからね!」
「ごめん…」
リリスとヘルは朝食を終えると,一日目と同じように街を歩き始めた。
「なんか今日は遠い所に行ってみたいなー。ねえ,私調べてみたらここの郊外にすごい魔術書図書館があるらしいよ。行ってみよう!」
「私四大属性に関しては平均以下なんだけど…」
「大丈夫だよ!これは通常の魔術書と変わらないらしいし」
とりあえず近くの魔術書図書館に行こうとした。しかし,昨日と同じくまた賊が現われた。
「また…?とりあえずちゃちゃっと倒しますか…」
しかし,ヘルは青ざめた顔で言った。
「フェン…リル…?」
「え?」
なぜそこで魔物の名前が出てくるのかが分からなかったが賊の方を見ると分かった。
「そこの女はこの魔物が弱点らしい。さっさとそこの女を捕らえろ」
彼らがそう言った瞬間だった。フェンリルを避けて必殺魔術が繰り出された。
「【黄泉への音】」
リリスがそう言うと賊四人が塵となって消えていった。
「ヘル,私が言うのもあれだけど…何かを犠牲にしたくないという気持ちは大切だよ。けどそれにとらわれすぎない方がいい」
そう言うと,リリスは転んだヘルにハンカチを貸してあげた。
⦅あの賊はなんでヘルの弱点がフェンリルだって分かったんだ?普通弱点だったら人質でも連れてくると思うのに…まさか犯人はヘルのことを知っている人?だったら……いやあり得ないか⦆
そこまで考えたが,まとまらなかったので思考を中断した。
図書館に着くと館長と思われる人が出迎えてくれた。
「ようこそ!この図書館にはヘル様が集めている魔術書はもちろん,死者が生前集めていた魔術書もあるんですよ」
「うぉぉぉぉぉ!!すごいよ!めっちゃある!」
ここの図書館には魔術書が九十万冊,一般書が十万冊ある。その他の本のほとんどが中央の図書館にあるらしいが,この世界の本の半数を占めているらしい。
およそ三時間経ったくらいの時に,ヘルが話しかけて来た。
「ねぇ。これ」
「どうしたの…?あっ」
ヘルが持って来たものはとある本だった。内容はある神が人間に天啓で語ってくれたものらしい。
「へぇ…こんなものもあるのね」
「うん。面白そうだから持って来た」
それから三時間くらいで図書館を離れることにした。
「ここら辺に面白そうな場所はないかなー?」
二人は図書館の周りをぐるぐる周っていると,十周目くらいで謎の穴が空いていることに気づいた。穴というよりも洞窟(どうくつ)に近い。
「こんな洞窟あったかな?なかったとしたらなぜ出現したか気になるし…入ってみよう!」
そう言ったリリスは知らなかったことなのだが,この洞窟は死んだ魔物が出てくる場所なのだった。元の世界でいうダンジョンと心霊スポットを兼ねている。
「ここ,なんか魔物多くない?いろんな種類いるし」
「うーん。この世界にいるっていうことは死んでいるんだろうけど……」
当然一級魔術師である二人が倒される訳もなく。リリスは圧倒的な物量と未知の魔術で,ヘルは精密な氷魔術と黒魔術と言われる術式を使って攻撃していた。
ダンジョンの奥に行くと,強そうな魔物が現れた。リリスが作業の様に倒そうとして術式を組み上げたがヘルの氷魔術で相殺された。
「ほらあの魔物を見てよ……。フェンリルとヨルムンガンドだよ。倒せない…!」
リリスの倒そうとしている中には,神話でヘルの兄弟とされていたフェンリルとヨルムンガンドの末裔(まつえい)の竜もいたのだ。
「それじゃあこの先生きていけないかもしれないよ?」
「けど…」
ヘルの気持ちはリリスにも分かったのだ。学園の人達に襲われたとしても迷っているかもしれない。しかし,
「大丈夫。貴女の兄弟は別のところで生きているわ」
「やっぱり殺せない…!そしたらもしあの人たちに会った時に会わせる顔がないよ…」
ヘルがそう言うとリリスはヘルに背中を向けて戦闘の準備をした。
「分かった。フェンリルとヨルムンガンドだけは生かしておくわ」
そう言うと本当に二匹だけを残して塵(ちり)となっていった。
「さあ,行きましょう?」
リリスがそう言った時だった。突然,放っておいた二匹が二人を目掛けて走って来た。
そしてリリスの腕が一本噛みちぎられた。
「……ぇ?」
そう声を発したのはヘルだった。
「逃げて!!これはすごい危険よ!防御結界が一切効かない!!」
⦅どうしよう…!私のせいでリリスは片腕を失った…⦆
考えたヘルは言った。
「【死者の国】」
ヘルの得意としている氷魔術,そして死体の操作術式でフェンリルとヨルムンガンドを倒した。
その後ヘルは心配してリリスの方に走ったが目を見開いた。
「二本腕があるってどういうこと!?」
「確かに私は襲われたよー?けど…」
リリスは少し溜めてから言った。
「私,魔物に傷をつけられるほど弱くはないよ?まあ,貴女の兄弟だったら分かんないけど…」
そこまで言われると,ヘルは叫ぶ様に言った。
「幻想魔術使ったなぁぁぁ!?」
幻想魔術とは,名の通り幻を見せる術式だ。この術式は対象より技量が上でないと幻を見せることが出来ないのだ。
「はぁぁぁ…私,この世界で女神務めているんだけどなぁ?ざっと十万年以上は魔術を極めている私より上って…貴女何者?」
⦅何者と言われても…ただただ転生して来た悪役令嬢としかいえないけど…⦆
なんてことは死んでも言えない。
「せっかくヘルが倒してくれたんだから報酬一つでもあっていいんじゃないかなー?」
そう独り言で言うと,本当に宝箱が見つかった。
「さて……ん?これは本?あと杖(ステッキ)も入っているけど……氷属性魔術を使えないからあげるよー」
本の内容は,ある人間の懺悔(ざんげ),不正の証拠,そして地獄などの地下世界を探索する術式が書かれていた。
リリスはこの世界を離れた後も交信するためにこの術式とその他に書かれたものを記憶した。
「さてっ,ホテルに戻りますかー」
洞窟を出ると,ゲーヘナが立っていた。
「ヘル様にリリス様…?なぜここにいるのですか?」
「えっと,リリスと一緒に図書館を回っていたらこの洞窟を見つけたの。……ゲーヘナも知っていたの?」
「え,はい。この世界の魔物は優しので」
そう話しながら,ゲーヘナと別れてホテルへ入った。
「今日はなんか色々と大変だったねー」
「私もちょっと覚悟が付いたかも?あの時はイラついたけど…ありがとう。リリス」
⦅私もトラウマは回復させていかないとなあ⦆
リリスは一日目の事を思い出して少し覚悟を決めて寝た。
* * *
カーティスは裁判記録に書かれていなかった5人のうちの図書館の館長のアンナ・アードラーという女性に会いに行った。
「うわぁ豪邸…」
それは前のビクニデルスで泊まった王城よりも大きかった。
「すみません!誰かいますかー」
「あっアードラー館長は今図書館にいますよ。ここから20分くらい歩いたところにあります」
図書館に行くと,笑顔で挨拶してくれた人がいた。
「あのすみません。アードラー館長はどこにいるんですか?」
「あら,私に何か用?」
どこからともなく出て来たのは二十代後半くらいの知的な女性だった。
「はい。少し聞きたいことがありまして…」
カーティスがそう言うと,疑ってくる様な顔をされたがすぐに応接室に案内してくれた。
「で,なんの用?貴方と会った記憶なんてないですけど」
「僕は最近ここに来て……死者の国には裁判所があると聞きました。貴女が裁判官を勤めていることも」
カーティスがそう言うとアンナは目を細めるのをやめて話し始めた。
「ええそうよ。ここでは死者が悪事をしていないか検証しているのもし犯罪歴がバレたら【地獄(ヘル)】に行くことになるわ」
アンナがそう言うと,カーティスは笑って次の言葉を言った。
「へぇ…ところで,最初に来た人間は誰が裁くのでしょうね?」
「……知らないわよ。ヘル様なんじゃない?」
アンナは動揺した。してしまった。焦りを見せた彼女にカーティスは笑顔を見せて,
「そう言えばアンナ・アードラーさん,貴女の裁判記録が見つからなかったのですが…」
「うるさいわね!!さっさと帰りなさい!」
そう言われて追い出されたカーティスは薄い笑みで考えていた。
⦅これは…多分当たりかな?このまま他の四人にも当たっていこう。⦆
カーティスは他の裁判官の三人にアンナと同じ様に聞いた。そしたら案の定彼女と同じ様な反応が返ってきた。
「あとは…ゲーヘナさんか」
カーティスがそう言うと,ゲーヘナは目の前に立っていた。
「こんにちは。少し話してもいいですか?」
「ええ」
ゲーヘナは他の四人と違い,同じ質問では動じなかった。しかし,次の質問で彼は動揺した。
「えぇっと…貴方が正しいというのは誰によって証明されたのですか?」
ゲーヘナは沈黙した。
「つまり…貴方は裁判を受けたんですか?あ,そう言えば現世ではゲーヘナという方が大勢の人を誘拐していたそうですよ?」
「……貴方は何が言いたいのですか?」
この質問をしたのは単純な疑問だった。ヘルから聞いた情報だと彼はこの世界が創られて初めて来た存在だという。
しかしヘルは彼に審判を下したと言っていないのだ。
また追い出されたカーティスはなんとなく嫌な予感がしながらも,気のせいだと思い込んで宿に帰っていった。
リリスの宿に,だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます