国外追放で再会する

「この【太陽の遺跡】には生前に出会った人間と再会することができます。ぜひ,会って話してみてください」


 リリスとヘルは半眼で【太陽の遺跡】を見た。二人は困り果てた様子でお互いの顔を見合った。

「うわぁー私,生前で会ったことあるの兄弟とあの神くらいしかないんだよねー…」

「私も出会ってはいるけど…思い出のある人間といったらあの女のせいでみんな私のこと嫌いだし…というか私死んでないから…」

⦅いや,そういえば転生する時に一回死んでいるから唯葉(ゆいは)にも会えたりするのかな?⦆

 そんなことを考えていると遠くに人影が見えた。その人から発されたとされる声は結構な距離からでも聞こえる。


『リリス様!こんなところにいたのですね?ふふっ一緒に帰りましょう?』

『リリス!やっと会えたね!嬉しい…』

「イリーナ泣かないで!?」

 2人が現れてここは,洗脳されていない時の記憶が出現するとリリスは考えた。

「ノ,ノア…?」

『久しぶりだね…元気だった?これからは僕たちも一緒だよ!』

「えっ…カリヤル…?」

 そこに見えていた人物はマリアにしか優しくしていない元・婚約者のカリヤル・ローゼンタールだった。

『ごめんなさい!君を幸せにできなくて…けどこれから幸せにしていくよ!』


 学園でお世話になった人たちが出てきて感動して涙が出た。一生ここに居たいとも思った。

『茉麻(まあさ),覚えている?私だよ。また会えて嬉しいな』

声の方を向くと,前世で唯一親友だった唯葉(ゆいは)が笑顔でこちらを見ていた。


 リリスはそれがとても嬉しくて,こんな世界が一生続けばいいのに…と思った。


 ヘルは真剣な眼差しでこちらを見ている。リリスも見つめ返すとしばらくその時間が続いた。

⦅そうだよね。ヘルにとっては辛いよね…ここに来てもそんな人がいないんだもの⦆

しかし,ヘルは私の方を指し始めた。リリスに変化があったのかと思い,自分を確認するが何もなかった。


 これでやっとヘルが指しているのは奥にいる友人達だと言うことが分かった。


 友人達を見ると一つ以外,変化はなかった。

マリアが立っているということ以外は。


『悪役令嬢がこんなに仲良くしてていいの?私は主人公だから…こんなこともできるんだ!』


 そう言ったマリアは地上世界と同じように彼らに洗脳をかけた。


『リリス様はマリアちゃんを虐めた。だから嫌い』

『リリスは不正をした悪女』

『リリスは悪女。リリスは悪女。リリスは悪女』

そんな言葉が続いた。リリスは自分を唯葉を見た。


『悪役令嬢リリス!!マリアを毎回毎回懲りずに虐めやがって…殺す,絶対殺す!!』


 太陽が見えていた世界も今では霜と氷で光があったという事実さえもなくなってしまいそうな程だった。


「……行くよ。もう夜だ」


 ヘルがそれを言わなければずっと泣いたままでこの遺跡を離れなかっただろう。

「ここは人を上げて落とすのが大好きなんだね。早くホテルに帰ろう」


 徒歩でホテルを目指していると目の前に人が現れた。


「お前らか…大雑把(おおざっぱ)に話すとだな…お前らの命が欲しい。抵抗しないなら痛みなく殺してやる」

 いかにもものを盗んでいそうという風貌(ふうぼう)でリリス達に話しかけた盗賊3人組の長らしき人がそう言った。

「盗賊…?ヘル,一つ聞くけどここの世界の人間は何をしても死なないよね?」

「うん。ここはみんな死んでいるから」


「話は終わったか?いいからさっさと首出せ…うぐっ…」

「兄貴!?くそっ…これでも喰らえ!!って効かない?うわぁぁぁぁぁ」

「ちょっと待ってくれ!いや待って…済まなかったからぁぁぁぁ」


 リリスは目の前にいた盗賊を退治した。

もっと正確に言うと,三人を肉塊に変えた。

「これ酷いことになってるけど!?本当に戻るのよね!?」

「うん。大丈夫。二十四時になったら自動で体と記憶が復元するはずよ。記憶も復元されるから今後私たちに襲ってくることはないと思うけど…」


 そう言って考え込もうとしているヘルにリリスは比較的明るい声で言った。

「お前らか…?って長(ボス)っぽい人が言っていたことでしょ?」

「うん。その言い方だと誰かに指示されたような感じだった…」

「けど,私たち一応一級魔術師でしょ?簡単には倒されないし,それが分かったら指示した人が直接出てくるんじゃない?」

「そうだね。ところで,どうした人を肉塊に変えたのにそんなに平気なの…?」

「生き返るからに決まってるでしょ。生き返らないならあんなにはやってないわ」


 そんなことを話していると目の前にホテルが見えてきた。しかし,一回の襲撃(しゅうげき)で許してくれるほど黒幕は優しくなかったのだ。


「また?いいよもう…ヘルがやってー」

「【死と生の歌ヘルエッダ】」


 ヘルがそう言うと,地面の氷が上昇して盗賊五人を拘束し,氷が砕け散るのと同時に肉塊へと変わっていった。


「ヘルはエグいことするねー。私あの術式使えないやー」

「いやいや,リリスはその他の魔術の方が得意でしょ!あの三人に使った【魔力分散】だって相当な魔力がないと攻撃すらできない訳だし」


 二人で話しているとあっという間に夜が来た。


「一応防御結界は張っておくかー。今日はいろんなことがあったねー」

「そうだね。首都近くの土地は分かった気がする!私も氷で防御結界は張って…」


「「おやすみ!!」」

⦅今日は遺跡でみんなに会ったけど…いつか思い出してくれるといいな…⦆

そう思ってリリスの一日目は終わった。


 * * *


「うぅ…。あの二人と一緒に歩くのは気まずかったけど。一人はなんか寂しいなぁ…」

 カーティスは独り言を呟きながら街を歩いていた。そして偶然見つけた図書館で一日を潰すことに決めた。

「とりあえず氷魔術から…」

四時間もすると図書館にあった魔術書は全て読み終わった。


「うーん…次は何を読もう?あ,そうだ。この死者の国ヘルヘイムについて知りたいかも…」


 そうしてカーティスが手に取ったのはある神が地上の人間に天啓として話した内容だった。


⦅この神様がヘルをここに追放したのか…けど,てっきりヘルをあの屋敷に閉じ込めているのかと思っていた。だったらヘルは屋敷から出れるのに旅をしたいって言ったのか…?いや,違う。出れなかったんだ。じゃあ一体誰がそんな細工を…⦆


 この世界の謎に近づいたカーティスは自分一人で説明出来ることではない,と考えるのをやめた。

 次にこの国の裁判記録について見た。これは,死者なら必ず受けないといけない裁判で,ここでは生前に悪事を働いていないかを取り調べると書いてある。


⦅あれ…この資料…ゲーヘナさんの裁判の資料がないぞ…?⦆

 疑問に思ったカーティスは,図書館の司書に尋ねた。

「すみません。この世界の人口ってどれくらいですか?」

「はい。確か裁判を終えた人数だと百億三七四〇万一三九一人と聞いています。裁判資料を見ていただけるとわかると思いますよ」


 おかしい。なぜなら裁判を終えた人は裁判の資料を見ると百億三七四〇万一三八六人だったのだ。


…!?⦆


 この疑問を片づけたかったのでカーティスは裁判の資料になかった名前を探すことになった。


「司書さんありがとうございます。ところで,その裁判官は誰がやっているんですか?」


 司書に聞くと,すぐに資料を出してくれた。


⦅明日はこの人達に話を聞いてみよう。 裁判所がここら辺にあるということは家も遠くはないだろうし…⦆


 そう考えて,カーティスは宿に戻っていった。

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