国外追放で人助けをする

 ドラゴンを倒してこの国の勇者になった二人はビクニデルスに滞在し始めてから三日が経った。

「おはよー。今日はどこに行こうか…私は魔道具が欲しいなー」

「じゃあ,そこに行く?一級魔術師もよく使っているブランドらしいよ」


 朝食を食べた後,二人は首都から離れて魔道具店に行った。


「こんにちは。えっとここには上質な魔道具があるって聞いたのですけど…」

「ええ,おすすめはこのコートです。四大属性以外の魔術の威力が上がるんですよ。あと模倣魔術もある程度使える仕様になっています」

⦅なるほど…私がよく使うのはその他の魔術だしコートも欲しかったからいいわね…⦆

 ちなみにリリスは四大属性の方の魔術は普通程度である。

「あっ! そこの男性の方にはこちらがおすすめですよ。この黒い箱はどうですか?本当の使い方は分からないのですが…模倣魔術に近いことができます」

「後で役立つかもだし…一応買っておくか…」

⦅商売上手…いやカーティスがチョロいだけか?⦆

 どっちにしろ,リリスは黒い箱に興味を示した。

「黒い箱…全て無に帰す物…. もしかして異世界に繋がるとか…? カーティス。もし要らなかった私に頂戴!」

「……絶対にあげない」


 そんな会話をして店出た二人は,道中で泣いている少女を見つけた。

「どうして泣いているの?私でよければ聞くよ」

「えっとね…毎日嫌がらせされているの…今日は教科書が破られたし,みんなに避けられるし…私が平民だから」

「分かるよ…その気持ち。野草とか食べさせられる羽目になるんだよね…で,何もやっていないのに悪いのは私…そのせいで国民全員に嫌われたり」

「リリス。もっとえぐい話で女の子を引かせないの。で,お名前は?」

「マ,マリア…お母さんが女神様のような人になりなさい。って意味で付けてくれたんだぁ。最近はマリアっていう聖女様が現れたらしいよ」

「うっ…マリアちゃんだね…とりあえず嫌がらせがどうやったらなくなるか考えよっか」


 リリスは学園でのトラウマが残っているのか半分涙目になりながら会話を続けた。

「嫌がらせを止める方法…魔術で成敗!とか…?」

「馬鹿なの?ここは僕達が出てきて睨みつけてからの暴言で終わりでしょ」

 二人が出した案は最悪だった。

「あっ!ここってビクニデルスよね?先生に圧かけて貰えばいいじゃない!」

「うわ…」

 こんな案しか出ないからとりあえず加害者達の家へ訪れてみた。

「すみません。こちらに子供はいますかー」

「なんだよ。うわっ生ゴミだ。くせぇ…」

「こんにちは,リリスと言います。残念ながらこの子からキツい臭(にお)いは出ていないと思うのですが」

「うるせぇんだよ!!平民は黙って貴族に従っていればいいものを!」

「おい。言いたいことはそれだけか?所詮(しょせん)は地方の貴族だろ?」


 荒い口調でそう言ったのはカーティスだった。本当に馬鹿にしているようなその口調はいじめっ子を怖がらせた。


「お前貴族じゃないくせに…黙っていろよ!」

「じゃあ後で確認すればいいけど。僕はね…」

カーティスがいじめっ子に小さな声で話し始めた。それを聞いていたいじめっ子は,徐々に青ざめていった。


「この子は僕の妹なんだよ…言いたいことがわかるね?ちなみに今後彼女にこんなことがあったら全部君の責任になるからね?」


 カーティスが脅し気味で言うといじめっ子はとても焦った表情で逃げていった。


「卑怯だね。妹っていうのは嘘でしょ?」

「もちろんだよ。これで彼が改心してくれるといいな」

「ところで,あの男の子が青ざめたっていうことは相当な役職で脅したんでしょ?なんなの?」

「えぇっと…助けて下さりありがとうございます!これで楽しい学校生活が送れると嬉しいです…」


 マリアも分かっているだろうが,いじめが消えたところで彼女に対してのマイナスな感情なくならない可能性の方が高い。


「マリア!?大丈夫?さっきルークス君と会ってたけど」

「大丈夫だよ!いつも励ましてくれてありがとう。これからも友達だよ!」


「……友達がいたんだね」

「仲が良い人達を見るのは辛い?」

⦅辛いよ…だって,だって私が仲良くなったところでみんなマリアに洗脳されていくから⦆


 四日目は王城でビクニデルスの王族の方々とトランプをした。

「えぇっと…勇者の方々!この国を助けて下さりありがとうございます!よければ一緒に遊びませんか?」

 金髪の上品な服を着た少女がそう話しかけてきた。隣を見ると国王陛下が焦った表情で女の子を見ている。

「すみません。うちの子が」

「いいですよ。今日はちょうど雨ですし」

「なんだろう。こういうので遊ぶって久しぶりだよね」


そんなことを話しながらトランプした。ちなみに神経衰弱(しんけいすいじゃく)はリリスが全勝していた。


 五日目は国を出る支度をした。

「うわっ。荷物多くなっちゃった。カーティスの鞄(かばん)に入れてくれない?」

「そんなのお得意の異次元ボックスにでも頼ればいいんじゃないの?僕だって全然入らないよ」

「あっそうだ!黒い箱に入れれないの?」

「この箱すごい小さいけど?…あ,入った」


 大急ぎで支度を終え,五日目の午後に国を出ることにした。


「本当に行かれるんですか?まだいてもいいのに…」

「いいんですよ。私たち,この国が初めての国で…とっても楽しかったです!」

「それではお元気で!」


「国,出たねー。次はどこに行くのかなー」

「僕も最近仕事を始めたばっかりであまり分からないんです。ところで首都を歩いていたらリリス様達の話で持ちきりだったんですけど…魔道具の件ですか?」

「あっ!!魔道具のお金あげるの忘れていた!!」


そんな後悔をしても馬車はすでに国からだいぶ離れていた。リリスは国に入る前に遭遇(そうぐう)したあの国境警備隊の人のことを考えながら一人で謝罪を始めた。


 * * *


「うーん…カーティス,貴方の正体なんなの?ビクニデルスの図書館で黒い箱について調べて見たら神に選ばれた人間しか契約できないって書かれていたんだけど。あのいじめの件もマリアからも連絡が来ないってとこはその正体が本物だったってことでしょ?」

「触れたってことはリリスも契約できる人間ってことだよね。どうして触れたの?」


 カーティスの問いの答えが自分でもよく分からなかったので馬車の中は沈黙の時間が流れた。


「まあ…置いておいてよその話は。いつか話すからさ!」

 カーティスが明るい声でそう言うと,リリスははぁ…,とため息をついた。


 正体を探るべく,質問攻めをしたがのらりくらり躱された。

「じゃあ,私のことをどこで知ったの?もしかして学園の先輩?」

「先輩じゃないけどー?学園行ってなかったから。けどすごい人が来たって下町で有名だったから。結界で監視してたんだよ。そしたらとても

可愛くってさ…」


そんな話をしながら窓を眺めていると

「あそこに建物が見えるんですがあそこに滞在しますか?」

「そうですね。ジェイクさん,あそこでお願いします」

⦅けどあそこに見えるの建物は木で作られていない気がする… あと,賑やかさを感じない。もう昔の国なのかな?⦆


 ジェイクが馬車を走らせると,建物に見えたものの正体が明らかになった。

「あれは…氷?なんか人がいるのか分からないくらいに静かね…」


 カーティスの発言から昔にあった国ではなく,この国に見えるものがとある世界だと言うことが判明した。


「となると,ここは死者の国ヘルヘイム…死人が行く世界だ」

「学校の教科書ではヘルヘイムは死者にしか見えず,現世に生きる人間は立ち入ることができないと書かれていたはずなんだけど… ジェイクさん,何か知っていることはありますか?」

「僕もそう言う風に習ったからね。残念だけど入ってみないことには始まらないかな」

⦅ここが死者の国ヘルヘイムだということはあの人物がいるはずなんだけど… 話が聞けるといいな⦆


 リリス達はそれぞれの疑問を頭に浮かべながら,死者の国と呼ばれる地に足を踏み入れた。

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