悪役公爵子息の、冴えた命の使い方【一章完結】
犬
届かぬ君に捧げるセレナーデ
第1話 こんにちは世界、そして死ね
異世界────いや、ゲームの世界に転生した。
ボンヤリと映していた眼の前の景色が鮮明になるにつれ、徐々に意識がハッキリしてくる。
眼下に見下ろす道を行き交うのは、人の群れ。
だが、いわゆる俺が知っている"人間"だけでなく、頭に耳がついていたり耳が長かったりと多種多様な人種が忙しなく行き交っている。
「坊ちゃま、こちらにおられましたか」
背後から声が掛かり振り返ると、メイド服を着た女性が恭しく頭を下げていた。
「──ああ、ちょっと涼みにね」
口が勝手に動いてメイドの人に返事をする。
·········なんだ。なんだ、これ。
「バルコニーでは冷風が御身に障ります。どうぞこちらに」
「そうだね。そうするよ」と言ってバルコニーから部屋の中に入り、ソファに腰掛ける。
無意識に体が動くが、困惑も混乱もぶっ飛ばして放心していた俺にはそれがありがたかった。
「紅茶をお持ちいたしました。それでは、私は失礼いたします」
メイドの人はティーワゴンから丁寧に紅茶を淹れると、俺の目の前にカップを置いて退室する。
俺はうん、と頷いてメイドの人が部屋から出ていくのをボンヤリと眺めていた。
落ち着け。落ち着こう。
少しでも冷静さを取り戻そうと紅茶の入ったカップに手を伸ばすが、無意識に手が震えていたので諦めて腕を組む。
そして細緻な模様が描かれた天井を見上げ、そっと息を吐き出した。
「···············なんだよ、これ」
☆
アクションRPGゲームの名作。
いや、迷作か。
現代の技術を惜しみなく注ぎ、制作期間約8年という地雷臭を漂わせたもの、無名のゲーム会社から出されたにしてはバカ売れしたゲーム。
───"ロストメモリアル"
通称"ロスメモ"。
美麗なグラフィックと爽快なアクション、精緻に作り込まれたキャラクターと、思わず唸るほどのやりこみ要素。
近年稀に見るほどに作り込まれた"ロストメモリアル"は動画サイトにプレイ動画がアップされるや否や、日和見していたゲーマー達やゲーム実況者がこぞってプレイし、多くのファンを生み出した。
そして多くのファンを獲得したにも関わらず、"ロストメモリアル"のゲームメタスコアは────34点。
ゲームメタスコアとは様々なレビューを集計し、数値化したいわゆる"点数"である。
それが34点。
50点以下はもれなくクソゲーと呼ばれるメタスコアの中で、光り輝く
────なぜか?
それは、ストーリーがクソほど救いのない"鬱ゲー"だからである。
しかもただの"鬱ゲー"ではない。
鬱ゲーを遥かに凌駕した、胸糞ゲーであるからだ。
とりあえず登場人物は主人公と数人以外は全員死ぬ。
泣き叫んでも、ゲーム機を破壊しても、活き活きとしていた魅力的なキャラクターやヒロインが片っ端から死んでいくのだ。
だが、ただ登場人物が死んでいくくらいではここまで低評価になることもなかっただろう。
低評価に最も貢献した原因。
それは、とあるクソカスな"悪役"があまりにも酷いクソっぷりを発揮し、ユーザーのヘイトを掻っ攫っていったからである。
あらゆる
その名も────アーク・ハワード。
作中の貴族階級、最上段に位置する"公爵家"の1人息子にして、プレイヤーもドン引きするレベルの悪行に手を染める悪役。
親殺しに始まり、強盗、強姦、誘拐 、人身売買。
終いには人類を裏切り、多くの人々を虐殺し、暴虐の限りを尽くす。
そんな、裏ボス。
そう、裏ボス。
雑魚でも中ボスでもラスボスでもない、作中最強に位置している裏ボス。
ロスメモに登場する魅力的なヒロイン達を片っ端から犯し、殺し、モンスターに食わせ、操って主人公達に殺させる、胸糞を通り越してゲームモニターを叩き割ったプレイヤーが続出した、クソみたいな裏ボス。
そんな悪役公爵子息で裏ボスの"アーク・ハワード"に。
俺は、転生したようです。
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