第五話 証拠
この話を聞いて、私は、この話を、娘の綾に言った。
「分かったは。私が、神尾雄一奇術部長に、直接、アタックしてみる!」
「馬鹿な事は止せよ。下手をすれば、綾ちゃんも危ないぞ」
「大丈夫よ。空手2段の彼氏もいるし、彼にも、応援を頼むわ」
「誰だ、その男の子の話、初めて聞いたが……」
「あれっ、お父さんに言ってなかったけ?私と、同じ大学受けるんよ」
「聞いて無いよう……」と、ダチョウ倶楽部よろしく、返事したのだが……。
要は、この前の小銭落としを再度実行し、娘の彼氏であろう武道の経験者に、コッソリと高感度カメラ搭載スマホで撮影し、あの鈴木隆正医師に見せて、例の仮説を、警察で述べてもらうと言う作戦らしい。
さて、高校3年の2学期の最終日、その作戦はいよいよ実行される事になった。
娘の彼氏は、山崎力也と言ういかにもたくましい名前であり、ヌンチャクの達人らしいとも聞いた。
娘に、ナイフ等を出したら、即座に、ヌンチャクで叩き落とす。
さて、2学期最後の授業が終わって、皆が帰る頃である。
「神尾雄一部長、一緒に返らない?」
「どうしたんだ、田中さん?」
「だって、神尾雄一部長には彼女いなんいんだし、私、立候補しようかなあ?」
「今は、そう言う気分にはなれないが、まあ、一緒に帰るぐらいなら問題ないか。どうせ隣同士だしな……」
「そう言う事。どうせ、神尾部長はT大へ行くんでしょう」
「まあ、今のところはねえ。他に行く大学も見当たらないし、欧米の大学は、学費や旅行代がかかるからなあ……」
「あっと、この先のコンビニで、バニラアイス買いたいし、一緒に来てくれる?」
「別に、構わないけど」
「ところで、お金、あったけなあ?」と、この前のように、小銭入れを出した時である。
チャリンと音がして、小銭が路上に散乱した。
しかし、周囲は、相当に薄暗く、探すのにも一苦労である。防犯灯も付いていない。
ようやく、600円ほど集めた時である。
すると神尾雄一は、あの電柱の元に、あと100円硬貨が一個落ちていると言った。薄暗くて、肉眼で探すのは、ほとんど不可能に近い状況なのである。
木陰で、この様子をスマホで録画しているのを確認した娘の綾は、ここでトンデモない行動に出たのだ。
「神尾雄一部長、今の超能力のような力は、一体何なの?こんな薄暗い場所で100円見つけるなんて絶対に不可能だわ。
私、思うんだけど、この前の『地獄の学園祭事件』は、実は事故では無くて、何度も事前に練習を繰り替えして、丁度、金属ピン2本が金属疲労で折れる時期に、あの奇術「地獄のギロチン」を、敢えて実施したんじゃないの?
私の、祖祖父は、有名な探偵作家が生み出した名探偵のモデルになった人物なのよ。
この私が出した結論は、結局、『地獄の学園祭事件』は事故ではなくて、綿密に寝られた計画的な犯罪だった。正解は、正にこれよ」
ここで、木陰に隠れていた、娘の彼氏の山崎力也が顔を出した。勿論、スマホのビデオモードは切っていない。録画中のままである。
しかし、このもの凄い問い詰めに対しても、神尾雄一は、顔色一つ変えない。
「しかし、僕には、恋人である上戸久美さんを殺害する動機が無い。これをどう説明する?」
「それは、神尾部長が、天才的な能力を交通事故によって得た代わりに、良心は逆に喪失したから、誰でも良かったのよ」
「……」
「私は、先ほどの100円玉探し当てた事実は、スマホに撮ってもらっているの。これを、精神医学の専門家や、警察に、提出してみるつもりよ。
横にいる山崎力也君は、空手2段、ヌンチャクの達人よ。私に手を出そうと思っても無理よ」
「そうか」と、神尾雄一の声は、意外と冷静で、沈着そのもの。そこには、怒りも反論も感じられ無かった。
「僕は、これで家に帰るよ。そのスマホのビデオは勝手にすればいい。じゃ、今日はここまでだな」と、それだけ言って、そのまま、何事も無かったように帰って行ったと言う……。
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