3恋愛ぶーときゃんぷ!?

「もう! 暴力禁止! いい?」

 みるくちゃんに正座をさせ、浩太は諭していた。

「えー、下僕のくせに、お説教?」

「うーるーさーいー」

 ぶちぶちと文句を言う彼女のこめかみを、拳固でぐりぐりと左右から責め立てる。

「あひゃあ、痛い痛~い」

「次はおっぱいのさきっちょ、押しちゃうからね!」

「……」


 無意識な浩太のセクハラ発言に、ドン引きで真顔のみるくちゃん。


「あ、ごめんなさい、言葉のあやです……」

 汚物を睨むような瞳に、浩太はすかさず土下座!


「と、とにかくさっきのは恋愛じゃないよ? これから僕と一緒に、本当の恋愛の訓練をしよう!」

「……」

「すいませんでしたあ! 一緒に頑張らせて下さい!!」

 ますます圧を強めるその蔑んだ視線に、巌ゆずりの美しい土下座が炸裂した!?


「……わかった」

 浩太の誠意? が通じたのか、すっくと立ちあがるみるくちゃん。

「その訓練、受けて立ーつ!」

 ……いや、まだ勘違いしているようにも見えるが、一歩前進? であった!?


「よし! それでは、みるくちゃん! 只今より恋愛ブートキャンプを開始する!!」

「ぶ、ぶーときゃんぷ?」

「そう……あっ、あぶないっ!」

 小首を傾げていたみるくちゃんに、転がっていた男の一人が殴りかかっていた。


「てめえ、ぶっ殺す!」

 咄嗟に浩太がみるくちゃんをかばう。


 ご、と鈍い、嫌な音が響いた。


「み……みるくちゃ……ん……」


 後頭部を殴られ、苦悶の色を浮かべた浩太が、崩れ落ちた。


「あ、ああ……こ、浩太?」

「ちっ、次はてめえ──」

「き・ら・いっー!」

 殺到した野郎の顔面に、涙目で怒髪天なみるくちゃんの鮮やかなカウンターが!

「ぐぼほおぉおぉおーっ!?」


 だったが、男はどこまで飛んだのだろう?


 無事であることを、祈る……。


「えぐ、えぐ、浩太ぁ~」

 号泣する美少女が、彼の襟首をつかみ、がくがくと揺する。

「み、みるくちゃん……大丈夫だった?」

 と、意識を取り戻した浩太が、やわらかく微笑んだ。

「……う、うん」

「そう……よかった」

「……」


 何だかその微笑みを見て、みるくちゃんはどぎまぎしていた。

(これは……なぁに……?)


 多分恋かもしれないし、違うかもしれない。

 それは、これからのぶーときゃんぷで、わかったいくのだろう。


「よし、じゃあ戻ろうか」

 ふらつきながらも浩太は立ち上がった。

「あ、大丈夫?」

 そ、と横からみるくちゃんがそれを支える。

「ありがとう」

「……」


 どきどきがさらに激しさを増し、赤面が加速していた。


「ん? どうしたの、みるくちゃん?」

「あひゃあっ!?」


 不意に、浩太の息が、そのかわいらしい耳に吹きかかり……。


「い・やっ!!」

「げえぇえっ!?」


 反射的に放たれた体落としが、鮮やかに決まった!


「……」

「……え? ええー!?」

 そのまま無言ですたすたと家に入っていくみるくちゃんに、浩太は大の字になりながらも首を捻るのだった。

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