キラキラ

たてのつくし

第1話 新しいクラス

 ゴールデンウィーク明けの火曜日、由美は学校が終わるやいなや、大急ぎで家に帰った。学校鞄を放り出し、母が用意してくれた軽食をかきこむと、再び、勢いよく家を飛び出した。


 駅前の塾までは、歩いて二十五分。いま四時だから、五時に始まる始業時間までに、かなりの余裕があるというのに、由美は全力で、走る、走る。


 先週受けたクラス分け試験に、手応えがあった。もしかしたら、一番上のクラスに上がれるかもしれない。そう思うと、落ち着いて家になど、いられなかったのだ。けれど軽食を食べたばかりの由美は、すぐに息が上がって横っ腹も痛くなった。それでも、脇を押さえながら、できる限り小走りで進む。


 駅前の裏通り、大きなパチンコ屋の向かいに建つビルの三階から六階までが、由美の通う学習塾だ。いつもなら、ちょっと乗るのをためらうビルのエレベーターだけど、肩で息をしながら飛び込む。


 家からまっしぐらにここまで来た由美だったが、三階で降り、塾の大きなガラスドアの前まで来たら、急に怖くなった。ドア脇の掲示板には、すでに模試の順位表が貼られている。由美は、どっと汗を掻きながら思った。もしだめだったらどうしよう。浮かれて、その『もしもの場合』を、考え忘れていたのだ。もしだめだったら、張り切って、こんなに早く来ちゃって、恥ずかしいではないか。


 由美が、ガラス戸を前にためらっていると、受付にいた野口先生と目が合った。先生の英語の授業は、とてもわかりやすいので人気がある。野口先生は、由美に気がつくと笑顔になり、おいでおいでと手を振った。そして、入り口脇の掲示板を指さすと、両手で大きな丸を作った。

 え、丸? これって、良かったって事だよね。


 由美は体が揺れるほどの動悸の中で、自動ドアが開くのももどかしく中に入った。ドアが閉まる音を背中で聞きながら、恐る恐る掲示板を見る。

 上位三十人しか載らない順位表を、一番下から見上げてゆく。今になって、ぽたっぽたっと、汗が伝う。田口由美、田口由美、なかなか見つからない。どんどん視線をあげてゆきながら、まさかないって事ないよね、と不安になりかけた頃、やっと自分の名前を見つけることができた。六番。六番か。え、六番。本当に六番?


「田口さん、ついにやったね。おめでとう」

掲示板の前で目をぱちくりさせている由美に、野口先生が声をかけた。

「これ、本当ですか」

由美が掲示板を指しながら言うと、

「もちろん。いつも頑張っているから、そのうちSクラスに来るだろうと思っていたけど、いきなり六番は本当にすごいよ」

「えへへへへへ」

野口先生に褒められて、由美はだらしなく頬を緩めた。

「今日から六階の教室だよ。前より宿題も増えるけど、田口さんならきっと大丈夫」


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