月下の夜会

Ayane

第1話

 満月の夜に、白い湯気が立ち昇る。

 目の前に座る黒いタキシードの男と紅茶をすすりながら、雪音は眉を顰めた。


「ねぇ、私たち今何してるんだっけ」

「お茶会ですね」


 月下のお茶会。それはわかる。白い月光に照らされて飲むお茶は格別の味であった。


「あのね」

「あ、このクッキー美味しいですね」


 雪音が話を切り出そうとすると、黒いタキシードの男が真ん中に置かれたお茶請けのクッキーを手に取ってサクサクとリスのように食べはじめる。


 サクサク。サクサク。


 リズミカルに刻まれる咀嚼音に、雪音は青筋を立てながらこぶしを握った。


「なんで怪盗のあんたと探偵の私がお茶会してるのよ!!!!」


 立ち上がり、シャウト。周囲のビル群に雪音の叫び声が反響して溶けていく。

 一方のタキシードの男――怪盗はきょとんとした表情で雪音を見上げていた。


「なんでって、月がきれいですからね」


「月がきれいだからってなんでお茶会になるの!? あんた怪盗! 私、探偵!」


 怪盗の男は「んー」と首をかしげる。


「本当にわからないので?」


「わかるかー!!」


 雪音が再度シャウト。まるで怪獣のようですねと笑って、立ち上がる。


「月が、きれいですね」

「は?」


「だから、そういうことですよ」


 怪盗は笑って、雪音を見下ろす。その背後では白い月がスポットライトのように二人を照らしていた。

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月下の夜会 Ayane @musica09

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